世界をイー度する「新しい産業」を創出

司会: バブルが崩壊して10年の月日が経過しましたが、これからの日本の社会経済情勢、また政治状況はどのようになっていくのかについて、見方や考えをお聞かせください。
山崎拓: 20世紀最後の10年は「失われた10年」といわれています。何とか失われたものを取り戻して、 21世紀の明るい未来の展望を切り開きたい。小泉政権の目指す「聖域なき構造改革」こそが、まさに日本の明るい未来を切り開く源泉です。行き詰まりを打開するために、我々は不退転の決意で小泉政権を支えていくつもりでおります。
奥田碩: 第二の敗戦といいますか、先のバブル崩壊をはじめとして大きな情勢の変化がありました。 敗戦後のように、もういっぺん「ゼロ」から立て直していかなければならないという時代が、 21世紀の初頭であるだろうとみています
司会: 昨年暮れに失業率が史上最悪を記録し、また、政治も経済も国民も、元気を失っている感を受けますが。
山崎拓: 雇用の場を確保していくために新しい産業を創造し、ベンチャー企業を育成していく。 これも、小泉構造改革の一つの重要なテーマであります。中国に生産拠点がどんどんシフトをしているということもありますが、安い労働コストを求めて海外に生産拠点を移していくことは経済の自然の法則ですから、必ずしもこれを否定すべきものでもないでしょう。 むしろ日本は積極的に新しい産業を興していきたいと考えます。  
最近、「IT革命」という言葉がもてはやされていますが、それ以上にバイオ技術や宇宙技術であるとか、新しいエネルギー技術であるとか、医療の技術など、いろいろ新しい技術がこれから育てられると思います。環境関連の技術は最も重要であり、総力を挙げて開発すべき分野だと思いますね。 日本は世界を技術の面でリードする努力が必要じゃないかと思います。
奥田碩: 日本が即刻やるべきことは不良債権の整理だと思います。それが終 わって、今度は銀行との調整になるんでしょうけれども、どの産業、どの会社を維持・発展させていくのか。その過程で、失業率が高まるということは、一時的 には避けられないだろうと感じております。しかし、それは着地点がはっきりしておれば、瞬間的に失業率が上がることはあっても、そんなに心配することはないのではないでしょうか。  
日本が中国はじめ諸外国をリードしていく技術を常にもつことが必要です。 特にバイオや環境技術、ナノテクノロジー(10億分の1の極細単位を扱う技術)など、絶えず他の国に先んじて新しい技術を創造していけば、日本はこれからも十分生きていけるし、発展できる可能性をもった国だと思います。
司会: 小泉政権は高い支持率を維持しております。これは国民の期待が大きいからだと思 いますが、国民は小泉内閣に何を期待しているのでしょうか。
山崎拓: 「失われた10年」のなかで経済も停滞しましたが、例えば14歳とか17歳とか、非常に若い世代の凶悪な事件が続々と発生するなど、社会不安も増大しました。 この10年を振り返ると、日本の国全体に閉塞感が漂っている。国民はイライ ラして、何とか打破できないかと思っている。同時に、将来不安もあるんですね。
「日本の経済は一流、政治は三流」などといわれたことがありますが、 そういう面で政治に対する不満もあるが、新しい政治構造の変化、新しいリー ダーの出現について国民の期待がすごく高まっています。例えばアンシャンレジーム(旧体制)打破のための派閥解消とか、スムーズな政治決定のメカニズムの確立とか、そういった改革への期待が大きくなっています。そんなとき、昨年の4月に小泉政権が誕生しました。国民は閉塞状況を打破する政治エネルギーというものを、小泉現総理に期待したということだと思います。  
それに小泉総理は、国民ウケのする部分をたくさんもっております。パーソナリティーとか、キャラクターとか、主義主張とかね。その主義主張である「聖域なき構造改革」ですが、今の行き詰まったもどかしい状況を何とか変えてほしい、 というのが国民の気持ちのなかにあって、強力なリーダーシップを小泉総理に期待しているのだと思 います。


『成功の囚人』とならぬために

奥田碩 閉塞感が充満し、変化を求めようという機運があった。  小泉さんは、参院選でも「改革」「変革」といった短い言葉で、ストレートにメッセージが伝わるようなスローガンを掲げて戦われました。それが共感を呼んだのではないでしょうか。  
私自身は会社のなかで、『成功の囚人』というものになっちゃいかんよと言ってきました。過去に大きな成功を収めた人ほど、自分のやり方にこだわるものです。成功すると、 これからも同じやり方でいきたいと思い、変えるのは怖いという気が出てくるわけです。 そのうち周囲の状況が変わってしまって、全く通用しなくなってくるのですが、 人間は成功体験から抜け出すのはなかなか難しいものです。しかし、変えることを怠っていると、 政党にしろ、会社にしろ、おかしくなってきます。  
小泉さんが、「改革」「変革」を言われたということは、逆にいうと、 自民党のなかにも成功の囚人になっている、慢心というと言い過ぎかもしれませんが、 惰性みたいなものがあって、それに対して小泉さんにクサビを一本打ち込まれたなと思 っています。


「提案」し「決断」するリーダー

司会: 政治のリーダーシップというものについては、いかがお考えでしょうか。
山崎拓: 経済界のリーダーは奥田さんで、政界のリーダーが小泉さんです。 リーダーシップのあり方としてはトップダウン方式とボトムアップ方式があります。 皆さんの意見をよく聞いてまとめていく、意見が対立すると、両方の意見を集約し、落としどころを考えてまとめて将来の不安を除去するにも構造改革を いくというやり方は、ボトムアップ方式に長けたリーダーです。小泉総理は、その面は少し不得意のようで、明確にトップダウン方式をとっています。  
小泉さんは常に自己主張を強くしてまいりました。しかし駆け出しのころは、 あまり力にならなかった。だが、今は十分なキャリアを積んで、政界でリー ドできる立場になっていますので、彼のトップダウン方式は有効なのです。 企業でもそうだと思いますが、取締役会などでいろいろ議論をしますが、 最後の断は、社長や会長が下されているのじゃないでしょうか。  
日本の政界もそうで、政党はたくさんあるし、自民党内にも政策集団がたくさんあるので、意見が相当分かれる。自衛隊の海外派遣に反対とか、賛成とか、いろいろ意見があるわけですね。 そういうなかで最終的に決めるのは小泉総理ですが、総理は最後に決めるだけではなくて、最初から提案するわけです。じっくり聞いて決めるのでなくて、 自分で提案をする。こういう構造改革はどうだ、特定法人や認可法人に関してゼ ロベースで見直すのはどうか。こういった提案をするわけです。そういう点 がほかのリーダーとは、ちょっと違います。
奥田碩: ボトムアップとトップダウン方式の2つがあって、そのどちらかを強く出 すか、どちらが得手なのかでリーダーシップの形が決まると思います。正直言って、私の場合はいささか独断専行といいますか、トップダウン方式のところが多いと思 いますね。  
小泉総理は自分から提案されると幹事長は言われましたけれども、たぶん小泉さんは若いときから、 自分が総理になったらこういうことをやってやろうとか。これはおかしいから変えてやろうという思 いが、相当腹のなかにあったのではないでしょうか。それが総理になられて、ボンボ ン出てきたと……。  
私は社長になるということは夢にも思わなかったが、こういうところは変えてやろうとか、 こういうことは変えないといかんな、ということは常に考えて仕事をしていたし、家でも考えておりました。私は人の話は聞くことは聞きますけれども、長くは聞いていないんです。 というのは、ほとんどが小田原評定になってしまう。だから、誰かが決めなきゃいかん。 そのときには、責任と義務を自分の双肩に背負って決める。これが一国の場合は総理であるし、会社でいえば社長、会長の責務だと思いますね。
司会 奥田会長が1995年に就任されたときは、トヨタ自動車はシェア が40%を割って厳しい状態にあったそうですが、リストラをせずに切り抜けられました。 奥田会長は「リストラをする経営者は腹を切れ」という発言をされたと伝 えられていますが。 奥田 「腹を切れ」というのは、編集者が勝手にタイトルにしたのであって、 私が言った覚えはないんですがね(笑)。  いずれにしろ、政府も企業も国民に対する責任は、雇用の場をつくり、 日々平安に暮らせるようにするということが一番大事なことだと思います。 これができないようであれば、私は経営者失格だろうと考えております。  最近、多くの企業で社員を辞めさせるとか、総数を減らすということをやっておりますが、 私は人を減らせば利益が上がるという考えには反対です。人員整理して株価が持ち直したと喜んでいるようでは経 営者は失格です。経営者は頭を絞って新たな事業を創り出し、雇用を吸収していく、 そういう努力が必要です。 司会 会長は終身雇用を掲げていらっしゃいますね。 奥田 私は、終身雇用と言ったことはないんです。「長期雇用」の利点はたくさんありますが、 戦後の経済成長のなかで、たまたまみんなが終身雇用できたという話であって、 私は「長期雇用がいいですよ」という言い方をしているわけです。 司会 小泉内閣の「聖域なき構造改革」についても、もう少し具体的にお話 しを願えればと思います。 山崎 ひとつは財政構造改革です。財政構造改革というのは、国の国債発行 残高が389兆円、地方をあわせますと666兆円という巨額の借金があるということです。 これは国民からの借金ですから、いつかは国が国債を買い戻すときがきます。 ですから、それが可能な財政にしておかないといけない。借金を返すためにまた借金しているというのが今の状況ですから、 いつかは行き詰まります。これを改革しようというのが財政構造改革です。  もうひとつは経済構造改革です。市場経済では効率化・能率化を進め、 競争に勝つことが必要です。そのために、できるだけ規制改革、以前は規 制緩和という言い方をしましたけれども、それを行うことで競争原理、 マーケットメカニズムが働くような方向に改革をしていくというのが経済構 造改革です。  そういうふうに分けて考えるべきですが、財政の赤字は国民の将来不安につながります。 こんなに赤字がたくさんあって、孫たちの時代はどうなるのだろうか。社会保障費の予 算はちゃんと組めるだろうか。そうした懸念ですね。赤字が拡大していけば一層 不安になるので、自分で将来に備えようとする。当然、貯蓄性向が非常に高まり、 消費が伸びなくなる。それが今の日本の経済です。GDP(国内総生産) の6割が個人消費ですから、この6割の部分が伸びなかったり落ち込んだりすると、 日本の経済全体が萎縮してしまいます。  将来不安を除去するために、財政構造改革を行う必要があります。中長期的 にみると、そのことが必ず経済の回復につながる。今のまま何もやらずにいけば、 2010年までの経済成長率はゼロか、せいぜい0・5%程度にとどまるが、 財政構造改革をやれば、1・5%か2・5%の実質成長率につながっていくというのが、 小泉総理の考え方です。そのためには「自分を信用して、しばらく辛抱してくれないか。 財政再建のために協力してくれないか」と総理はお願いしているわけです。 奥田 政治に関しては、幹事長が言われた通りのことをやっておられますし、 我々もそれを信じています。しかし、民間企業としては、いたずらに政府 に頼るとか、「政府の方針が悪いからこうなった」というグチを言うのはやめようじゃないかと。 むしろ自分たちの両足でしっかり立って、逆に民間が官をリードするという姿 勢に経済界ももっていかないといけないと思うんですね。  何よりも一番大事なことは、21世紀の日本は創造性・独創性を発揮した「 技術創造立国」を目指していく。民間もそのために大いに知恵を絞る必要 があると思っています。 司会 「世界のなかの日本」という視点からいうと、東西冷戦後の世界はどのように変わったのでしょうか。 山崎 政治の面でいいますと、冷戦構造が崩壊いたし まして、国際社会の安全保障問題はガラリと変わりました。代表的な現象としまして、 湾岸危機があります。  冷戦構造時代は、米ソというニ大軍事大国が対立しており、みんな東側・ 西側のどちらかの系列に入っておりました。イラクは旧ソ連の翼の下にいた国ですが、 冷戦構造が崩壊して旧ソ連の重しがなくなって、突然、 クウェートに襲いかかるという行動をとったわけです。冷戦時代だったら、 ソ連が「やめておけ」と言って抑えていたはずです。湾岸戦争に象徴されるように、 今は地域紛争多発の時代に入ったわけです。  昨年の米国における同時多発テロは、また新しい安 全保障上の問題を提起しました。新しい国際紛争のパターンが発生したわけです。 米国を中心とする対アフガニスタン軍事政策は、これからテロをもくろもうとする人 たちに対する警鐘を乱打するという意味がある。わが国もテロ対策特別措 置法を異例のスピードで成立させて、自衛隊による支援協力活動に入っているところです。 司会 奥田会長には、グローバルな経済環境の変化についてお聞きしたいと思 います。 奥田 東西冷戦が終わったときに、アメリカでIT産業がどんどん発達しました。 それからグローバリゼーションといいますか、国境を越えて人とかモノとかカ ネとかすべてが動く時代になってきました。日本は面積的にいえば非常に小さな国ですが、 これからますます多国籍的に全世界を相手にして仕事していく、というふうに視点 を変えていかなければならないと思います。  加えて環境問題がありますが、国際的視野で、そういった問題を先取りしてうまくやっていった企業は成功している。 依然として日本のなかだけで仕事を完結してしまおうとするスタンスでは、 21世紀の企業としてはやっていけないと思います。従って日本国全体、特に経 済界は、目を地球全体に広げていかないと、振り落とされてしまう時代だと思 います。 司会 最後に、今年1年を展望して、政治・経済の両面から、国民に力強いメッ セージをいただきたいと思います。 山崎 今は一番苦しいときですが、ここを我慢すれば必ず明るい未来が訪 れます。私どもも、いろいろな面で国民が希望をもてるように、着実に政策の展 開を行っていきたいと思います。もちろん、政治改革もちゃんといたします。 奥田 経済界も同じでして、今が一番苦しい時期ですが、これを乗り越えれば、 その先には必ず展望が開けます。みんな希望をもって頑張っていただきたいと思 います。私は日本の国民の資質は非常に高いので、どんなことがあっても日本 人は困難を乗り越えて成長していくと信じています。 司会 山崎幹事長も奥田会長も、くれぐれも健康に留意なさって、明るく活力ある国づくりにリー ダーシップを発揮していただきたいと思います。ありがとうございました。 (女性のための政治情報誌|りぶる 2002年2月号より転載) 司会 渡辺人美119 118 国民の資質を信じて 明るい未来へ新しい国際紛争の パターンが発生