地方発進で 世界へ・未来へ

山崎拓: 知事は「地方発進で世界へ・未来へ」と言っておられますが、国の動きとの連携をどのようにお考えになりますか?
麻生渡: やはり地方は独自の工夫を徹底的にやっていかなければ、内外の地域間競争に勝てないと思っています。それで、いま福岡県は3つ大きな目標を持っています。1番目はやはり雇用・景気です。景気を立て直して、雇用を創り出す。そのために21世紀型の産業を創っていく。2番目は、少子高齢化社会がどんどん進んでおりますので、新しい生活様式、社会システムを作り上げていく。 3番目は、福岡は地政学的に見たらアジアの玄関口ですから、アジアを中心に国際的な拠点としていく、というのが目標で、これらについては後程詳しくお話 ししたいと思います。
山崎拓: なるほど。
麻生渡: 小泉総理もよく「構造改革」の基本路線として「官から民へ」、「中央から地方へ」と言うのですが、何を「中央から地方へ」と言おうとしているのか。 「官から民」はわかりやすいのだけれども、「中央から地方へ」というのは、 私も通訳して県民のみなさんに説明しなければならない立場ですが、やや抽象論でよくわからないところがあって困ってます。何を「中央から地方へ」と振 り向けるのか、どんなものの中心を移すことをお望みになるか、総理にお示しいただきたいと思 っております。自治体としての要望の第1は、何と言っても自分で使えるお金が非常に少ないので、 まずは自分の裁量で使えるお金を増やしてほしい。そういう意味では、補助金あるいは負担金を整理統合するとか、交付税も一般的な交付税ならまだしも事実上補助金化している交付税など地方で自由に使えるようにしてもらいたいものです。2番目は福祉行政。これもいろんなやり方があります。それぞれの地域で伝統もありますし家庭や地域での協力の仕方も違っていますから、これももっと地域に自主性を与えるようにしてほしい。 3番目にぜひ教育の自主権を与えてもらいたい。教育の考え方にはいろいろあるわけです。 全国一律に「ゆとり教育だ」と言って土曜日を休みにしようとしていますが、 これは問題が多いと私は考えています。だからゆとり教育もあれば、知識を重視してもっと鍛えるという教育も選択可能な形にしてもらいたい。4番目は、 基礎的な公共投資。これは県をまたがったところがありますから、大きな部分は国でやってもらいたいが、 地方の社会資本充実については、もっとわれわれに権限を与えてもらいたいと思 います。
山崎拓: 1番目と4番目ですかね。“自主財源を与えろ” という話と“社会資本の整備は地方に任せろ”という話はかなりリンケージしていると思います。私もそう思うのですよ。公共事業費を抑える上で、真に必要なものに限定する必要がありますが、真に必要な地方の社会資本整備は、中央ではほんとはよくわからないのではないかという感じがします。 高速道路の体系なんかは中央である程度わかるでしょうが、地方道には国があまり立ち入るべきではない気 がします。それから、教育における教育委員会制度は機能してないのですか?



このままでは子どもたちが怠け者になるのが目に見えています

麻生渡: 機能してないですね。すべてが文部科学省の方に目が向いています。 また、定員とかいろんな予算も文部科学省にひとつの基準がありますよね。 たとえば生徒何人に対して先生は何人とか、教科書はいくつか選択できますが、 教える量というのも全国一律の標準によってなされています。本当は変えられるかもしれませんが、 独自に地方の教育委員会が変えるという習慣と言いますか、慣行になってないのが現実です。
山崎拓: “教育委員会制度の見直しも教育改革の柱に据えて”という議論は現在のところないですね。 教育基本法を見直すという議論や理科教育の振興とかそんな話はありますが、 教育委員会制度の見直しはあまり登場しませんね。
麻生渡: 教育委員会制度には両面あります。知事が変わる、知事の教育信条をもって教育の仕方が変わる、それはあまりよくない、ということで、いわば教育の政治的 な中立性を守るための教育委員会だという考え方があります。ところが、今は、知事の教育理念を踏まえて教育委員会が判断するのではなくて、地方の実情をかえりみないで文部科学省が決めてしまう。ですから、教育の改革が進まないわけです。「土曜日の休みは止めてもいいではないか」、「うちではちゃんと土曜日に勉強させようではないか」ということは知事にはできないのですよ。 それで、せいぜい休みになった後、みんなを集めて「青少年アンビシャス運動」をするくらいです。このままでは子どもたちが怠け者になるのが目に見えていますから、 家から引っ張り出してなにかをやらせようじゃないか、そういう運動です。
山崎拓: 教科書選定の問題はどうなっているのでしょうか?地方では教育委員会で選 ぶことになっていますが、あの制度はうまく機能していますか?
麻生渡: あれはまず機能していると考えてもいいのではないでしょうか。選 び方自体の仕組みとしては、それでいいのでしょう。
山崎拓: つまり、今の検定制度でいいということですか?
麻生渡: はい。
 


本来は在宅がいいと思いながらも、結局は施設に

山崎拓: 福祉の地方分権については、どういう分野で特に期待されますか?
麻生渡: たとえば、介護保険。介護保険にもいろんな考え方がございまして、在宅サービスを徹底的にやった方がいいという考え方と、施設に入れるという考え方とあるわけです。都市の人と農村の人ではずいぶん違います。 ところがそういうサービスについて、現在の介護保険制度では全国一律の点数なのです。ですから、本当は私の方は居宅を重視して居宅の方に点数をたくさん与えてお金を払えるようにしたいと考 えても制度上はそれができない。そうすると、いままで家族の方がいろいろ世話 していたのに、施設の方へどんどん移っていくというような現象が起こっています。 判定基準も6段階ありますが、それぞれ地域差があっていいのではないかと思 います。判定もコンピューターでやるのですよ。自動的に。「これはランク 2」とか「3です」とか出ます。ともかくすべて中央で決まって自動的に地方も一律になる仕組みです。だから地域特性を活かしにくい。せいぜい地域特性が活かせるのは保険業務をひとつの市町村で行うか、連合して行うかくらいです。
山崎拓: やっぱり基本的には在宅の方がいいのでしょうね。
麻生渡: 本来、人間の姿としてはそれがいいと思います。ただ、施設がありますと家族としては楽なのですよ。ですから、施設へ入れる経済的な負担が余りかからないとなると、 本来は在宅がいいと思いながらも、結局は施設に入れることになります。
山崎拓: お話を伺っていると、中央集権のいろいろな問題点が出てきています。 地方が中心となる日本の新しい形を考える時に、中央行政の現場(麻生知 事は通産省出身)に長くおられてから地域のリーダーになられたわけですが、 ギャップは相当大きいですか?
麻生渡: 私が想像していた以上に日本は徹底した中央集権ですね。本当に多くのことが縦割りで地方に流れてくる。これは日本の将来にとって危険だと思います。 というのは、中央集権のよい点はキャッチアップする時です。キャッチアップする時には、アメリカやヨーロッパの先進事例を調べて「これが一番うまくいきそうだ」 ということで取り入れ、さらにいろいろ日本に合うように少し変更を加えて一気にやれば、確かにスッとうまくいってどんどん前に進んでいきました。ところが、今では世界に先駆けて日本が高度高齢化社会になり、少子化も進んでいる。 日本だけしかない経験をどんどんし始めているのです。こういう時には、それをどういうふうに処理したらいいのか地方で複数の実験をすべきなのです。 教育もそうです。アメリカ型の、各州が違ったことをやってその中から一番うまくいきそうなものを取り上げていく、 ということをやっておかないと危ない。全国一律のやり方を続けると、もしそれがダ メだったら全部がダメになってしまう。
山崎拓: 受け皿が小さすぎるというところもあるのではないですか? 市町村合併が進んでいますけれども、自治体の単位が小さすぎるという感じもしますけど。
麻生渡: その通りだと思います。市町村段階の問題と県段階の問題があります。 たとえば市町村段階の問題では、福岡県の場合では、一番小さい村の人口は1000人を割っています。一番大きいのは福岡市で130万人を超えています。行政力の格差はものすごい。しかし、建前としては同じような行政をやらないといけないのです。 政令指定都市は少し違いますが、せめて5万人、ほんとは10万人位の単位の市町村にして、専門分野の有能な人材も登用する。このようなことを当然しなければならないと思 います。



世界との競争に負けないような飛行場を

山崎拓: 福岡の未来像についての3つの目標をもう少し詳しくお話しいただけますか。
麻生渡: 初めに、「雇用・景気」「新しい生活様式、社会システム」「アジ ア中心の国際的な拠点」と申し上げましたが、まず、1番目の雇用を創り出すのが一番大事です。景気を押し上げるには、所得の高い雇用でないとダメです。所得の高い雇用を創り出すには、やはり儲かるハイテク型のところをどうしてもやらなければいけない。 すでに、福岡ギガビットハイウェーを作って最先端のITインフラを整備しました。 今後は、システムLSIの世界的な設計開発拠点にする構想とか、あるいは福岡のバイオ能力を活かし、世界的な拠点づくりを進めていく。そのようなことを通じて環境分野も含めた“リーディング・インダストリー”をどんどん育てていく、雇用を創り出していく、そういう地域にしたいと考えています。
山崎拓: 地方の科学技術創造立国ですね。
麻生渡: 2番目は高齢化社会になってまして、どうやったらいいかということです。 やっぱり高齢者の皆様に生き甲斐を持って少しでも働いてもらう仕組みが大事です。 たとえば、高齢者を派遣業で雇う高齢者能力開発センターとか、高齢者が集まって取り組む受注産業、また高齢者が高齢者をお世話する社会システムなどによって、 新しいライフスタイルをつくっていく、ということです。それから、3番目のアジアの拠点になっていく。文化的な経済的な、そして人材的な拠点づくりですが、 その場合に国にぜひお願いしたいのは“どうしても飛行場がいる”ということです。 空港のない拠点はありえません。ぜひ世界との競争に負けないような飛行場を作らせていただきたい。
山崎拓: 社会資本の整備は時間がかかりますから早め早めにやらないといかんと思います。航空の需要が急速に膨らんでいますからね。福岡空港が容量的に満杯に来ていることはあまり知られてないんですが、いま、離発着間隔は2分以内ですか?
麻生渡: 混雑時には1分50秒位です。
山崎拓: こんなに過密になっていることに、皆さん気がつきませんからね。
麻生渡: 2月にも福岡で大シンポジウムをやりました。“大交流時代の新福岡空港 を目指して”ということで800人もの参加者がありました。
山崎拓: 今が便利すぎますからね。元来、人間は保守的だから移転というとすごく抵抗があると思いますけどね、柔道で鍛えた豪腕でリードして、新空港建設に向けて路線を引いてもらいたいと思います。われわれも協力します。
麻生渡: 福岡が発展した大きな推進力は便利な飛行場ですよね。便利なゆえに飛行 場が満杯になる。すると、今度は思う時に飛行機の切符が買えない。その結果、 路線が世界的に張れない。だから、むしろ便利な飛行場が満杯になったがゆえに、 今度は不便な地域になってしまうわけです。今までのよさが一気に逆転してしまうというこの怖 さですね。皆様によく知ってもらいたいと思います。
山崎拓: 私もときどき上空で着陸を待たされますけど、そろそろ限界だなということを肌身に感じます。それについてお金は大丈夫ですか?
麻生渡: お金はね、いろいろ工夫すればね。
山崎拓: 民間の知恵とか?
麻生渡: まさに民間の知恵ですね。儲からないところまでみんな民間でしようとすると無理です。 現実をよく見つめた建設方式をとらなければいけない。もちろん民間のお金とか世界 のお金なんかも導入していかないといけないと思います。
山崎拓: いまの飛行場の公有地がありますからね。それもひとつの財源になるかと思 います。PF方式とか上下分離方式で、やる余地があるのではないでしょうか。



新しい金融システムを導入しようと

麻生渡: いま中小企業に運転資金がほんとに回らなくなっています。特に、将来に向かって、育てたい、いわゆるベンチャー型の企業、あるいはいい技術を持っている比較的新しい企業に対してです。これらは物的担保を持っておりませんからね。 銀行はとても慎重で将来にちょっとでも不安があったら貸さないという状態です。 なんとかしたいと思って、約1年かけて研究し、新しい金融システムを導入しようとしています。 これは銀行から企業にお金を貸します。貸した債権をSPC(特定目的会社) に移して、ここでひとつの債権に束ねて証券化して小口にして売り出す、 こういったやり方です。現在のやり方ですと、銀行は1社1社これは大丈夫かどうか見て担保をとる。このやり方をしている限りは、将来性はあるが担保がない企業になかなか資金が投じられない。新金融システムでは、沢山 の企業をまとめてデフォルト率という倒産率を計算いたします。その理論を使って、玉石混淆でも全体としては倒産率を考えてやれるという融資の仕組みをつくっていこうということです。いまの市中の金利は4%くらいのコ ストにあたります。優良企業はもっと低く借りられますが、グレーゾーンの企業は借りられません。新しい制度では「担保なしで結構ですよ」、「今までは第3者を保証人につけてもらっていましたが、それは大変ですから本人の保証だけで貸しましょう」という仕組みで1000億円を枠として第1回目をやってみたいと思っています。いま準備をしておりまして、実際に募集を始めるのは4月以降になります。
山崎拓: 大胆な試みですね。直接金融で100億円と言いましたね。
麻生渡: これは市場を通じて募集するもので、100億円くらいでやります。とにかく銀行は安全第一になりました。ですから、県も一定のリスクを負って産業育成の先頭に立とうと__。
山崎拓: これはほかの金融機関でもいいのですか?
麻生渡: どこでもいいんです。直接金融を使いながら中小企業に金をまわすというやり方を相当工夫して考えないと、いまの銀行経営ではなかなか中小企業に金は回らない。 特に、懸命に成長しているベンチャーに運転資金を回したい。道をなんとか拓きたいと思 います。
山崎拓: がんばってください。ありがとうございました。

(2002年2月7日 山崎事務所にて)