(2002年2月28日 山崎事務所にて)


韓国側に「一緒にフランスへ行こうよ」という英文の垂れ幕が出ていて

岡野俊一郎: 新聞などで、多少は政局のことも拝見しているんですが、大変ですね。 幹事長のお立場でご苦労も多いことでしょうね。
山崎拓: いろいろ対応に追われてまして、サッカーみたいにはいかないです。 ルールがないものですからね。スポーツの良いところは、ルールがあるというところですね。
岡野俊一郎: ルールがありませんか。そうですか。本当に激務でいらっしゃるなと思 っています。何かスポーツは?
山崎拓: 僕は柔道6段でございまして、学生時代、中・高・大、10年間、ほとんど毎日やっていました。
岡野俊一郎: 大変失礼ですけど、耳の形、つぶれ方を拝見して、そうじゃないかなと( 笑)。せっかく幹事長にお目にかかれたので、政局についていろいろお聞きしたいけど、 やはりもうすぐワールドカップでして、これまで政府、あるいは各党のお力でようやく準備が整いつつありまして… …。
山崎拓: ワールドカップは政治の面でもいろんな意味を持ってまして、日韓関係 の発展のために非常に大きな役割を果たします。もちろん世界の平和にも貢 献するんですけど、とりわけ日韓両国の共催になってますので、ものすごく意味深 いものと思います。
岡野俊一郎: そうですね。率直に言って、最初単独でやるつもりでいましたが、 6年前、1996年5月31日に国際サッカー連盟が共催を決めたので、私どもも全 員が気持ちを切りかえて、とにかく共催の大会をまず成功させようと。それによって自然 と、政治、いろんな面で多分良い方向に向くのではないかということで、 すぐ気持ちを切りかえました。  日本と韓国のサッカーは、戦争前、ある意味では悲しい日韓の関係の中でも、 実は韓国の人たちと一緒にやってたんですね。全く差をつけないで。ですから、 戦前も、韓国の旧制の中学が何回も優勝してるんです。その関係があって、 国交がない前から試合はやってたんですね。ただまあ、こういう形でワー ルドカップを一緒にやるとは思ってもみませんでしたが……。
山崎拓: 新しい日韓関係の象徴だと思いますね。
岡野俊一郎: はい。私が、ああ、これは良い方向に流れるなと思ったのは、98年 でした。前回のフランスでのワールドカップ、その予選のときにソウルで日本 と韓国の試合をやったんです。競技場へ入りましたら、日本のサポーター がみんなユニフォームの青いをダーッと着ていて、反対側に真っ赤なユニ フォームを着て韓国のサポーターがザーッと。ところが、その横に垂れ幕があって「 Go to France Together!」と。韓国側に「一緒にフランスへ行こうよ」という英文の垂れ幕が出ていて、いや、変わったなと。韓国のサ ポーターが応援してくれたわけですよ。98年の本大会には韓国も日本も参 加したんですが、両国のサポーターが一緒になって応援する、韓国の試合はまた日本 のサポーターが一緒になって応援すると、この姿を見たときに、本当にこれは日韓関係 の中でもう共同作業が始まってるんだなという印象が強うございましたね。
山崎拓: 昨年、教科書問題とか、それから靖国神社問題がありまして、非常にギ スギスしたんですが、比較的早く収拾できたのは、ワールドカップにさわったらいかんと、 運営に支障になってはいかんので、早く片づけようという意識が両方にあったからでもあるんでしょうね。 まあ、小泉総理の訪韓で収拾したんですが、スポーツが政治を超えた人類和 解の分野であるということを証明しまして、本当に良いことだったと思います。
岡野俊一郎: そうですね。そういう形でお役に立てるなんていうのはわれわれにとっても大変うれしいことですね。
山崎拓: オリンピックもそうですが、やっぱりスポーツは大事です。それと、 さっき申しましたように、ルールがありますしね。ルールを守っていくことをス ポーツマンは身につけてます。ですから、社会に出てもルールを守りますので、 非常に歓迎されるんですね。企業でもスポーツマンの採用を優先しますが、 それはルールを守ることを身につけているからだと思います。
岡野俊一郎: 本当に、サッカーを初めとして、スポーツはルールがないと成り立ちませんのでね。 私どもがよく言うんですけど、スポーツは世界の言葉だと。身内のときはサ ッカーは世界の言葉と言ってますが(笑)。共通のルールがあるおかげで言葉 が通じなくてもすぐ一緒にやれるものですから。
山崎拓: そうですね。ルールはいちいち翻訳しなくても済みますからね。



お金がかからないで、丸いものが1個あればみんなが楽しめる

岡野俊一郎: 最近、テレビを見てて、ああっと思ったんですが、アフガンのああいう状況の中で、 政治がちょっと安定したとき、最初にやったスポーツがサッカーの試合で、 ああ、やっぱりアフガニスタンでもサッカーはみんなやってるんだなと思 いまして、大変喜んでテレビの画面を見ていました。
山崎拓: 特にサッカーは誰でもできる。
岡野俊一郎: そうですね。お金がかからないというのが一番良いところかもしれません。
山崎拓: アフガニスタンもサッカーは盛んですか。
岡野俊一郎: はい。やはり非常に盛んな競技です。
山崎拓: あのあたりの国は大体強いんでしょう。トルコとか、イランとか。
岡野俊一郎: はい。みんな強豪です。
山崎拓: アフガニスタンもそうですか。
岡野俊一郎: はい。アラブ中東地域での、唯一とは言いませんけど、最大のスポ ーツなものですから、みんなあそこらへんは小さいときからボールを蹴ってますので。
山崎拓: スポーツ人口が多いほうがその種目は発展するというか、強くなりますね。
岡野俊一郎: そうですね。おっしゃるとおりで、競技人口が少ない中から強くしようと思 うと、一時期は特別のエリート養成でやれるんですけど、やっぱり根が張ってませんと、 なかなか永続して良い形はつくれませんね。サッカーは世界で一番盛んな競技 で、最大の競技人口を持ってる。日本ではマイナースポーツだったものですから、 追っかけていかなきゃいけないんで、長い間、下積みをやってたわけですけど、 ようやくこのごろ、若い人が大勢やってくれてますので、大変喜んで見ています。 今、正式の登録メンバーが、これは子どもも含めてですが、公式の試合へ出 る選手が82万人。
山崎拓: ほーお。すごい規模ですね。
岡野俊一郎: それから審判員、これも正式の審判員が12万人、指導者の登録が2 万5000人、私のような役員が都道府県協会とか地域協会、日本協会を含めて5 500人。大ざっぱに言いますと、約100万近い人間が正式に登録されて、 全部登録費を払って、協会のメンバーとして仕事をしています。少子化の傾 向もあってだんだん減るかもしれないんですけど、今のところは伸びています。 われわれとしては、もうちょっと日本でスポーツを身近でやれる場が欲しいなと思 ってたものですから、ワールドカップをきっかけにして、キャンプ地が80 、立候補し、開催地が10。少なくともそれだけのスポーツ施設ができたということは、 大会の後にそれを地元の方が使って、どんどん汗を流して、仲間と一緒に楽 しんでもらいたいと願っています。ワールドカップが開催できて、多くの人 がスポーツをやれる機会ができるようになったという意味で、本当に感謝をしています。
山崎拓: 日本は約100万人として、世界の規模はどうなんですか。
岡野俊一郎: そうですね。国際サッカー連盟に今、204団体が加盟しています。
山崎拓: そんなにたくさん国がありますかね。
岡野俊一郎: 国だけでなく地域も含めてです。IOC、国際オリンピック委員会が1 98ですから、それよりは多いんです。国際サッカー連盟の統計だと、競技 人口が世界で2億5000万。そうすると、奥さんとか、子どもとか、恋人 とか、関心を持ってくれる人が約その4倍あるんで、10億ぐらいが関係者ということになりますね。 地球上の人口の約20%が何らかの形でサッカーにかかわっていると。ですから、 国際サッカー連盟は非常なパワーを持っていますし、影響力も強いわけです。
山崎拓: 最大スポーツじゃないですか。野球だって地域偏在ですからね。秘密は何でしょう。
岡野俊一郎: きわめて簡単で、お金がかからないで、丸いものが1個あればみんなが楽 しめる。ですから逆に日本は、そういう意味で大正ごろからもう豊かだったんじゃないでしょうか。 多くの人が道具を使うスポーツをやれたわけですね。今でもやっぱり、ア フリカとか、発展途上にある、なかなか経済的に豊かでない国では、道具を子 どもが買いたいと言っても、親が与えるだけの財力がないところが結構多いですね。 だから、サッカーがなぜ盛んになったかというと、ひとつは、完全にお金がかからないというところだったんじゃないかと思 いますね。
山崎拓: なるほど。それなら、どんな国でもやれますね。
岡野俊一郎: はい。そんなわけで、日本は弱かったものですから、随分世界を歩いて勉強させてもらいまして、 やっぱりスポーツをもう少しみんなの身近なところに置きたいなと。それで、 Jリーグというプロ組織をクラブシステムでつくりました。あれはスター トが2年遅れたらもうバブル崩壊でできなかったかもしれませんが、多くの人 のサポートを得て、何とか形をつくらせていただいた。外国の関係者もみんな、 「この10年の日本のサッカーの発展はすごいね」と言ってくれますけれど、 本当にそういう意味では私どもが予想もしなかったような発展につながっています。

 

「あそこまでよく戦った!」 という感動のあるゲーム

山崎拓: ワールドカップの準備に関して、それこそ政治が協力しなきゃいけないようなことはもうないでしょうか。
岡野俊一郎: いや、もう本当に準備段階でいろいろご協力いただきまして、各省庁を含め、 ワールドカップ推進議員連盟の先生方からも本当に良い形をつくっていただいたと思 っています。まだこれから細かい部分で何か出てくるかもしれませんけど、 大筋では大体軌道に乗ったと思っています。ただ、テロの問題とか、まだまだ何が起 こるかわかりませんけど。フーリガンなんていう言葉も今、日本ではやっていまして、 競技場で暴れる連中ですが、これも法務省を通じてイングランドのスコッ トランドヤード、向こうの警視庁ですが、ご協力をお願いしました。そこの専門官が3 人来てくれまして、イングランドの試合のときにはフーリガンが暴れないようにちゃんと目配りをしてくださることになってますし。
山崎拓: よくわからないですね。何で暴れるんでしょうかね。
岡野俊一郎: フーリガンの発祥はイングランドの北のほう、リバプールとか、あっちのほうは工 業地帯が非常に経済的に疲弊しまして、離職者が大勢出たわけですね。その若者たちが鬱 積した気持ちをどこかで発散させたいというので、サッカー場を利用したわけです。 ですから、本当にサッカーの好きなサポーターじゃなくて、サッカー場あるいはその周辺で騒ぎを起 こして、たまってたものを発散させようと、これが主目的なんですね。英 国ではそういうのがわりと日常化して続いてたものですから、競技場にテ レビを設置して700人から1000人の首謀者というか、中心人物の面を割ってありますので、 法律で大会前にパスポートを取り上げるようになっています。ですから、 そういう中心になる連中は来ないはずなんですが、面の割れてないのが来て、 競技場の中なら、私ども競技団体としても、また地方の県警の皆さんとも協力していろいろやれるんですけど、 競技場外で、町中でやられると困るなと思って、そういう意味でもできるだけ万全 の手配をしたいということで、協力体制をお願いしています。
山崎拓: 日本チームの調子はいかがでしょうか。
岡野俊一郎: そうですね。率直に言って、最初ベルギーとやる、ロシアとやる、 チュニジアとやる、みんな大陸が分かれてるんですけど、これらのチームはみんな国際連 盟のランキングでいくと20位、21位、27位なんです。残念ながら、日本はまだ3 7位です。ですから、われわれよりランクが上の相手とやるわけですけど、 でも、日本でやれば、私はどの試合にもチャンスはあると思っています。 ただ、選手に一番期待しているのは、勝ったほうがいいに決まってるんですけど、 勝敗は別にしても、ご覧になって、応援してくださった方が、「あそこまでよく戦った! 」という感動のあるゲームですね。
山崎拓: 感動のあるゲームという言葉は、大変重要な言葉だと思いますね。 やっぱりスポーツは国民に喜びや感動を与えないと、あるいは勇気を与えないといけないと思 います。貴乃花が優勝したとき、小泉総理が総理大臣杯を渡すときに「感動した」 と言って流行語になりましたよね。ああいう感動したというシーンがあることを期待しますね。
岡野俊一郎: そうですね。あの時は私、たまたまテレビを見てましたけど、小泉総理の「 感動した」という言葉に感動しましたね、私は全く。うーんと思って拝見しました。
山崎拓: なかなか核心を突いてますよね。
岡野俊一郎: はい。ある意味でスポーツの良さは、見てる人、やってる人、一体になってその勝負に熱 中すると同時に、やはり気持ちが伝わってきます。ですから、見てくださった方が「 よくやったな」と言っていただければいいと思ってますが、その上に勝てばもっと良い( 笑)というのが欲張った私の気持ちですけど。




素質を引き出す、才能を引き出す、 そして開花させるのが本来の教育

岡野俊一郎: ちょっとサッカーから離れるんですが、私は、中教審、臨教審、生涯 学習審議会というところで20年近く委員をさせていただいていました。議 論しながらつくづく考えるんですが、仲間と一緒に仕事をする「心」、それと活力のある「 身体」、この2つをスポーツを利用してもう少し今の若者に持ってほしいなという気 持ちを非常に強く持っているんです。自分のことしか考えない。ちょっと電 車へ乗ると平気で床に座っている。若い人たちが活力があって、明るい顔をして何かしようという感じがちょっと欠けてるんじゃないかなと。 ですから、スポーツ施設をもっと利用し、学校でももっとスポーツを使って、 国際化の中で生きるわけですから、仲間と一緒に仕事をしようと。自分だけで楽 しむんじゃなしに、場合によっては自分にとっては損だけど、チームにプ ラスになることだったら自分が多少損してもやるんだというような気持ちが、 私も年とったのかもしれませんけど、今の若者を見てるとちょっと欠けてるような気 がして仕方がないんです。いかがですかね、そこら辺は。
山崎拓: いろんなことが言えるんですけど、今おっしゃったことは私がかねてから感じていることでもありますね。 私は柔道なんですね。これは個人競技なんですよ。もちろん団体で試合することはありますが、 それも5人選手が出て、3勝2敗とか、そういうことなんですね。サッカ ーのような団体競技と違うんですね。団体競技はチームワークが要求されるわけです。 ひとりではどうにもならないので、みんなで球をつなぎ合わせていってゴ ールへ向かう、あるいはみんなで守らなきゃ守れないわけで、チームプレー に徹するということが要求されますね。柔道はチームプレーというのがないわけです。 総取りではありますが、試合は自分ひとりでやりますから。
岡野俊一郎: 1対1ですね。
山崎拓: 1対1ですからね。ですから、どうも、自分が比較的エゴイストなのはそのせいかな( 笑)と思ったりするんですけど……。団体競技の良さはチームプレーにある。 それで私は国会議員になってからずっと、ソフトボールをやってるんです。 柔道の傍らですね。全然違った種類のスポーツですけど。ソフトボールはサ ッカーほどではないが、やっぱりチームプレーですね。私はピッチャーなんですが、 ピッチャーだけではどうにもならないんで、ほとんど野手にとらせるわけですから。 そういうことで総力戦なんですね。やってみて団体競技のほうが教育上良いと思 います。  それから、団体競技に限らず、個人競技でも大事な点は気力です。この気 力というやつが社会で活動する上においてどうしても必要ですね。同じ意味になりますが、 競争心がない人はだめですね。競争心だけで、才能がないといけませんが、 まあ、才能のない点はある程度、競争心や気力でカバーできると思います。 それから練習量ですね。練習量はものすごく大事なんで、「継続は力なり」 という言葉がありますが、練習は絶対無駄じゃないですね。柔道では特に稽 古量が強さを規定すると言われるぐらいに、稽古は大事です。今の小泉総理の聖域なき構 造改革のキャッチフレーズじゃないが、たゆまず、ひるまず、立ち止まらずやるという、 この精神ですね。やっぱりスポーツで鍛えられた人はそういうものを持っている、 身につけていると思います。
岡野俊一郎: 確かに柔道は勝負は1対1ですけど、やっぱり指導者が重要ではないでしょうか。 ある程度、自分でももちろんやれるけど、やっぱり良い指導者にぶつかるということが自分を伸 ばす上でも大事なんじゃないかと思うんですけど。
山崎拓: そうですね。自分の技にどういう良いところがあるか、どこに欠点 があるかということは、外から見ないとわかりませんね。自分自身で経験である程度身につきますけど、こうしたら技がかかるとか、こうしたら投げられるとかいう感覚 はわかりますけど、指導者がそれを見て、注意してくれたほうが早いですよね。 早く上達しますね。それと、やっぱり指導者を尊敬できるということが大事ですね。 人格的に尊敬できない人の下では多分良い選手は育たないんじゃないか。 指導者の役割って非常に全人格的なもので、技だけじゃないと思うんですね。
岡野俊一郎: そういう意味では、勝負は1対1ですけど、やっぱりひとつのチー ムみたいな、指導者と選手というコンビがよければ、進歩も早いし、力もつけられると。
山崎拓: そうですね。まあ、本人が持っている素質、隠された才能みたいなものを引き出 してやるということも指導者の大事な役割で、教育者とイコールだと思います。 教育を英語でエデュケーションと言いますが、この語源はご存じだと思いますけど、 ラテン語のエルカシオというのからきているそうです。エルカシオは「引き出 す」という意味だそうで、何か教えるということではなくて、その人の持ってる素 質を引き出す、才能を引き出す、そして開花させるのが本来の教育の目的 なんですね。才能のない人はいません。みんな何らかの素質を持ってるわけですね。 算数が得意な人、走るのが速い人、記憶力の良い人、心のきれいな人とか、 何らかの素質があるわけで、そういうものを引き出して、周りの人との関係 をよくして、良い仕事ができるように誘導するということじゃないでしょうかね。
岡野俊一郎: 私もそのとおりだと思いますね。そういう意味からすると、今の学 校教育には何かが欠けていると思いますね。
山崎拓: それは押し込むからですよ。詰め込み主義教育という言葉がありますけど、 あれはいかんと思います。引き出してないわけですよ。同じ知識を全部にイ ンプットするわけです。みんなカボチャになっちゃうわけで。一面のカボ チャ畑になっちゃう。カボチャって悪い食べ物じゃなくて栄養はいっぱいあるんだけど、 昔、私はカボチャばっかり食べてた世代なんで、あんまりいい思い出がカ ボチャにないんです(笑)。カボチャ生産者に悪いけど。
岡野俊一郎: 私も同じような世代ですから(笑)。私も今、ほとんどカボチャは食 べなくなっちゃったです。
山崎拓: あのころもう鼻についちっゃて。あんまり食べさせられたものだから。
岡野俊一郎: そうですね。子どもが小さいときに、僕が息子に「何でも食べなきゃだめだ」 と言ったら、「お父さん、カボチャ食べないじゃない」と言うから、「いや、 もう一生分食べた」とか言って(笑)。
山崎拓: カボチャ談義はともかくとして(笑)、やはりコーチが重要ですね。
岡野俊一郎: ええ、やっぱり日本のサッカーが伸びたのは指導者養成がうまくいったからだと思 います。おっしゃったように、子どもたちの良い点をうまく引き出してやると、 欠点があっても、それも消えていきます。だから、良いのをどんどん引っ張っていけば良いんですが… …。高校生を教えてた先輩が、お亡くなりになるちょっと前に、年賀状に書いてこられたことなんですが、 教えることより、やらせることのほうがいかに難しいかを痛感していると。 教えるのは知識を持っていればやれるんですね。だけど、子どもたちが進 んでやろうという意欲、それを引き出すのはいかに難しいかということを痛感していると… …。
山崎拓: ひとりひとり違いますから、同じことを教えてもだめですね。背の高い人 、低い人、体重の多い人、軽い人、体のかたい人、やわらかい人、腕力のある人 、ない人、足が速い人、遅い人、腰が良い人、悪い人、みんな違いますからね。 どこかいいところは持ってるんだけど、悪いところも持ってますから、それをひとりひとり、適性というか、 素質をちゃんと見抜ける人じゃないといけませんね。だから、選手に対する愛情がないと、 コーチは通り一遍に教えちゃうから。柔道の世界で言うと、背負い投げに向く人 と、足払いに向く人と、違いますからね。足の短い人にいくら足払いを教えても、 背負い投げさせたほうが早い。
岡野俊一郎: なるほど。そうですね。やっぱり自分の体に合った武器をつくっていく。 政治にも通用するような話ですね。
山崎拓: そうです、そうです。ですから、やっぱり得意な分野を政治家にも持たせるということが大事で、 私は政策集団を率いてましたけど、やっぱりその人その人が持ってる特質を見抜いて、 そういう場で活動できるように仕向けています。経済が得意な人、安全保障が得意な人 、憲法が得意な人って、いろいろ得意な分野はおのずからあるんですよね。 不思議なことで。

 

「君が代」を歌うとき、「よし、やるぞ」 という気になると

岡野俊一郎: 政治にも分野によって向き不向きがあるんですか。
山崎拓: そうですね。持ち味というか。政策分野や選挙区の事情も影響しますけど。 農村地帯の選挙区の人、工業地帯の選挙区の人、サラリーマンばっかりいる選 挙区の人と、それぞれ違った問題意識があるんですね。その違った問題意識に応えていかないと票 がとれないわけですから、そういうものをマスターするように、まあ、おのずからなるんですけど、 また、そう仕向ける必要がありますね。
岡野俊一郎: そうですか。これは一遍、サッカーのコーチの講習会に山崎さんに来ていただいて( 笑)。今の話はサッカーにも本当にそのまま当てはまるんじゃないかと思 いますね。政治の世界は門外漢で、私はそこのところは全然わからなかったですが、 やはりおひとりおひとりにそういう持ち味がそれぞれおありになるんですね。
山崎拓: ええ、違いますからね。
岡野俊一郎: その上のチームワークなんでしょうね。
山崎拓: その中で指導者になる人は限られてますよ。サッカーで言えばコー チや監督になる人、そういう素質を持った人は限られてますでしょ。ですから、 コーチが何人いる、指導者が何人いるというお話がありましたが、これはそう簡単 に育ちません。だれでもできるものじゃない。だから大変なんですね。
岡野俊一郎: おっしゃるとおりです。資格をとるのはある意味では簡単かもしれませんけど、 それを生かせるかどうかは。
山崎拓: ええ。審判はできるかもしれませんけど、コーチは難しいと思うんですよ。
岡野俊一郎: やっぱり、さっきおっしゃったように、ひとりひとりの選手の特徴や素 質を見抜けるかどうか……。
山崎拓: それでまた、そのコーチに魅力がないと、人の言うことを聞かない。 人間的な魅力がないと聞く耳を持ちませんよ。この人はいやだと思ったら、 大体話を聞かないですよ。好かれるということが大事な要素なんですね。 好かれることの基本にはやっぱり明るさがあるでしょうね。明るい人じゃないと好 かれませんね。暗い人は不思議に好かれない。スポーツマンは概して明るいですから。 まあ、暗いスポーツマンはあんまり私、見たことがない(笑)。
岡野俊一郎: そうですね(笑)。私も14年もオリンピック委員会のほうの専務理事を兼ねてやってたものですから、        いろんな競技の皆さんとおつき合いしたけど、今、山崎さんが言われたように、 暗い人はほとんどいないですね。
山崎拓: ただ、鼻の高いやつはおりますよ。あんまり才能があり過ぎて、早く強くなると得意になる人 はいますけど、そういう人は他人に好かれないですね。本人はまあ明るく振 る舞っちゃおるんだけど、あまりにも思い上がってる。ですから、強くなってなおかつ謙虚でいるというのは難しいですよね。 勝負の世界ですから、文句なしに強いやつが優遇されますのでね。学校ス ポーツなら、上位の学年の人を、強さ弱さにかかわらず下級生が背中を流すとか、 掃除をやるとか、そういうことである程度の秩序を身につけますけどね。 学校スポーツの良いところはそこなんですよ。しかし、やっぱり基本的には、 強いやつは1年生が選手になるし、弱い人は3年になっても4年になっても選 手になれない、どんどん追い越されていくという非情なところもあります。
岡野俊一郎: そうですね。これはまあ勝負の世界ですから。
山崎拓: 競争の社会ですから。
岡野俊一郎: いや、でも、今のようなお話を、ほんと、お暇には当分おなりにならないだろうけど、 一遍、指導者の集まりに来て話をしていただいたら、やっぱり違った世界 の見方は、われわれにとって良い刺激になります。仲間うちではああだ、 こうだ議論をしますが。
山崎拓: オリンピックが終わるとパラリンピックをやりますね。あれがひとつの社会の姿 で、競争をやれば、社会的弱者は必ず負けるんです。社会的弱者をどうやって社会の中で同じ公平感を持って、 あるいは平等感をもって生きていけるようにするかということになると、 100m競争を仮にやるとすれば、速い人はもう決まってるから、足の悪い人 は走れないわけです。それをゴールの30m前から走らせるとか、あるいは車いすで走らせるとか、 それが社会保障だと思うんですよ。みんなゴールにつけるようにしてあげる。 しかし、そういうハンディなしに世界記録をつくる人、本当に速い人、これは賞賛 する。それは仕方のないことであり、また、人類が発展していく上で、ス ポーツでも記録を伸ばすということはどうしても必要なことですね。ほめなけりゃ絶対に強くならないですね。 表彰しないと。金メダルをもらおうと思わなきゃ練習しないですよ。今の学 校教育の非常に悪いところはそこなんですね。運動会で順番をつけない。 これはよくないですよ。
岡野俊一郎: よくないですね。全くおかしいですね。
山崎拓: 悪平等になっちゃうんですよ。ハンディキャップをつけて、パラリンピ ックみたいに別な金メダルで賞賛するということは社会保障として良いけど、 みんな同じだということになると、速く走るやつはいなくなるんですよ。 速く走るやつがいなくなると、社会が発展しない。ノーベル賞をとるやつがいないと、 新しい発明・発見が生まれないと同じですよ。
岡野俊一郎: まったくそうですね。おっしゃるとおりですね。ワールドカップでも、 これだけ多くの人がサポートもしてくださってますので、やっぱりそういう周囲の熱 意みたいなものを選手が受けとるということも僕はとっても大事だと思うんですね。 なぜ日の丸をつけるのか。僕らは必ず試合の前、両国の国家をやるわけですよ。 うちの選手は歌うんですよ、みんな。サポーターがみんな「君が代」を一緒になって歌うんですね。 選手が言ってます。「君が代」を歌うとき、「よし、やるぞ」という気になると言うんですね、 やっぱり。  われわれ役員は試合場には出ませんが、協会も一緒になってみんなでとにかく成功させ、 日韓関係がさらに良い方向に進むように、また、21世紀の日本のサッカー の新しいスタートの第一歩にしたいと思ってますので、よろしくお力を拝 借したいと思います。
山崎拓: やはり国家意識って大事ですね。みんな国家を忘れてますよ。自分の国というのを。 オリンピックのときに思い出すように、ワールドカップでも思い出して考 えて欲しいと思いますね。自分のアイデンティティというか、帰属意識を。
岡野俊一郎: 頑張りたいと思いますので、また今後とも……。
山崎拓: ありがとうございました。頑張ってください。

(2002年2月28日 山崎事務所にて)