地域社会での住民との 密接な連携に重点を

山崎拓: 私は国連ハビタット(国連人間居住計画)推進議員連盟の会長をさせていただいており、 少しでもお役に立ちたいと考えていますので今日はなんなりとどうぞ(笑) 。重要な国際機関が日本、そして福岡を活動拠点に選んでくださったことで、 福岡からアジアに貢献できる足がかりができて大変嬉しく思っています。
マダブ・マテマ: ありがとうございます。ハビタット事務局本部及びアフ リカ・アラブ地域事務所はケニアのナイロビにあります。ラテンアメリカ ・カリブ海地域事務所はブラジルのリオ・デ・ジャネイロに設置してあり、 アジア・太平洋地域を管轄するこの福岡事務所は97年、世界で3ヵ所目の地 域事務所として開設されました。開設されて4年半が過ぎましたが、アジ アにはたくさんの国があるが何故日本なのか?たくさんの市町村がある中で何故福岡なのか? とよく質問されます。私どもはアジアの非常に難しい状況の中で仕事をしております。 日本はもちろん先進国で同時に希望に溢れた国ですから、その希望の国から途 上国の問題を解決していきたいと考えております。福岡市は、アジアにおいて国際化を推進 する政策をはっきりと前面に打ち出している数少ない都市のひとつです。 カブールやヘラート(アフガニスタン)のビジネスマンは東京よりもむしろ福岡のことをよく知 っているんですよ。
山崎拓: せっかくの機会ですのでハビタットの活動についてお聞かせ下さい。
マダブ・マテマ: 現在アジア太平洋地域の15ヵ国で取り組みを進めており、私どもは都 市の貧困層の改善をテーマに、政策、行政、地域コミュニティの3つのレベ ルで仕事をさせていただいております。とくにバングラデシュ、アフガニ スタン、カンボジアではコミュニティレベル、地域社会での住民との密接な連 携に重点をおいて取り組んでいます。日本の都市開発における様々な経験や専門知 識が大いに役に立つと考えます。日本の優れた技術をこれらの国々に移転 するため、まず取り組み始めたものとして”福岡方式“(注・福岡市と福岡大学 が開発した低コストで環境にやさしいゴミ埋め立て工法)というものがあります。 それを契機に、ほかにも日本中の様々な機関との協力関係を拡大しようとしております。 一例として、昨年、九州大学との共同でモンゴルのウランバートルで地震 調査プロジェクトを開始しました。  私どもは毎年1000〜1500万ドル規模のプロジェクトを行っております。 インターナショナルスタッフが15名、地域で採用するローカルスタッフが約5 00名おり、雇用にも結びついています。
山崎拓: 15ヵ国の中でもとりわけアフガニスタン再建に重点があるとお聞きしました。 日本に拠点がある国連機関の地域事務所で、唯一、アフガニスタンでのプ ロジェクトを直接管轄しておられるんですね。アフガニスタンは昨年のテロ事件以降、非常にクローズアップされましたが、この様な事件が起こる10年以上も前から支援活動をされているのは先見の明があったというべきでしょう。 長期間にわたるその経験が今後の新しい局面でも大変役に立つのではないかと思 います。アフガニスタンは旧ソ連軍が撤退した後10年間に渡って荒廃してまいりましたが、 とくに今回は国際社会が全面的にサポートすることになったので、ハビタ ットも重要な役割を果たせるのではないかと思います。アフガニスタン復興会議 を日本で主催し新しいスタートを切ったところですし、新たな枠組みの中でハビタットの皆さんが大きな役割を果たしていただけるよう、われわれも努力してまいりたいと思います。
マダブ・マテマ: 日本はアフガニスタンの再建について中心となって活躍されるべき存在です。 その日本に事務所を構えるハビタットもアフガニスタンの復興に向け、大変重要な意義ある働きができるものと考えております。アフガニスタンではカ ルザイ議長の下、暫定政権が設立しましたが、それ以前からハビタットはアフガニスタンに6つの事務所をおき、コミュニティレベルで活動を開始 しておりました。主な活動は居住環境の改善です。それから、基本的なニーズである水、衛生、ゴミの回収といったものに住民が簡単にアクセスできるように、そして毛布、ろうそく、灯油といった緊急援助物資の配布にも参加して参 りました。 しかし、特に申し上げたいのは、ハビタットの本当の強みは、 コミュニティの人たち、地域社会の人たちと密接に協力をしていることです。 1989年に旧ソ連軍が撤退いたしまして、その後活動を再開したわけですが、 その時にわれわれが認識しましたのはお金だけでは地域社会の問題は解決しないということでした。 アフガニスタンのコミュニティというのは宗教、民族、政治的思想によって分断 されております。このバラバラになった人たちをまとめるため、地区ごとに“コミュニティ・フォーラム”という協議会を作り、このメカニズムを通して約300万人の住民に支援の手を差し伸べてまいりました。住民が民主的な議論を重ねた上でハビタットからの援助資金の用途を決める方式、これを定着させたことは大きな成果だと思 っています。現在、暫定政権が設立され人々に認知された市町村の自治体が生まれたことで状況が少し変わってきておりますので、私どもも新政権や新しくできた市町村、地域社会・コミュニティとどのようにして連携していくかに重点を置き始めています。


コミュニティと緊密に働く上で女性の役割が欠かせない

山崎拓: アフガニスタンからお戻りになられたばかりということで、現地の現状に照らし合わせ、 もっとも日本に求められるのはどのようなことなのか、日本がやるべきことは何か、 教えていただければと思います。
マダブ・マテマ: 正直にお話したいと思いますけれども、日本は3つの点でアフガニスタンを支援することができると思います。まず、重点分野において財政的 な支援をしていただくということ、次に日本の優れた、そして真に必要とされる技術をアフガニスタンに移転すること、そして個人的にはこれが一番大事だと思うんですけど、ボランティア・システムを構築することです。この3つをバラバラにやるのではなく、統合した形でやるべきだと思います。現在住宅の再建を始めようとしているところですが、これが非常に難しい問題なんですね。実際には外から来た人ではなく、あくまで住民が中心となって再建するのですから、 その住民の手助けをするという意味での支援なんです。住民と密に接しながら自立を手助けすることが大事で、 ぜひ日本の若い建築家や技術者の方々にやっていただきたい。私どもの経験では、特に女性や若者はコミュニティと協力しながら進めていくという点で非常に優れています。
山崎拓: なるほど、居住環境といえばなおさら女性の役割が重要になりそうですね。
マダブ・マテマ: 実はハビタットの活動は2つの点で非常に高く評価されているのです。 1つは先ほど申し上げたように、コミュニティと緊密な連携をはかっていくことで、 もう1つは女性と協力して仕事をしてきたことです。居住関係の改善に対する女性の役割はとても重要で、あの悲惨な、タリバン政権で抑圧された時代でも活躍していました。 アフガニスタンのコミュニティ・フォーラムの多くが女性によって運営されています。  
面白いエピソードがあります。私は96年にミャンマーの貧しい村で社会経済調査をしたのですが、「あなた方の村には何が必要ですか?」と質問すると、 男性たちが空港や道路や病院建設だと答えたのに対し、女性たちは水、学校、医療などと答えました。要は女性のほうが家族のニーズをわかっているのです。一般的に、女性のほうが優れたマネジャーだという気がします。目的に忠実で妥協せず、 しかも良き相談相手となります。だからコミュニティとうまく協力しながら緊密に働く上では、 女性の役割が欠かせないわけです。女性はコミュニティの人たちと密に接し手助けすることで、純粋な喜びを感じるようです.。男は名誉や権威を求めがちですが(笑)。 日本でもたとえば、北九州市の環境改善や水俣病問題の解決における女性の参 画を見ますと、いかに女性の役割が不可欠だったかがわかります。
山崎拓: いま日本ではNGOの活動について、本題からはずれた政治的な理由から関心が集まっているんですが、NGOの評価・ステータスといったものがまだはっきりと固まっていません。 国連機関であるハビタットから見たNGO活動に対する評価、協力体制といったものをご紹介願えれば大変参考になると思います。
マダブ・マテマ: タリバン政権時代から私は国際的なNGO団体と緊密な協力体制を結んできました。 国際NGOであるICRC(国際赤十字委員会)、アメリカ、フランス、 ドイツのNGOと共に活動を行ってまいりました。都市化の問題解決にあたっては、 様々なアクターと一緒に仕事をすることが非常に重要であると言う認識がハビタットの中にあります。ハビタットにとってのメリットは活動のための選択肢が増えるということ、NGOにとってのメリットは専門的な知識が得られ、 プロジェクトに関する規律というものを学び取ることです。私は日本のNGOもアフガニスタンにおいて活躍の場がたくさんあると考えておりますので、 今後日本のNGOとアフガニスタンで復興協力していけることを大変楽しみにしております。
山崎拓: 日本のNGOと今までにコンビを組まれたことはありますか?
マダブ・マテマ: アフガニスタンではまだありません。しかし、日本の2つのNG O団体がアフガニスタンで活動しているということは知っております。
山崎拓: アフガン復興会議への出席問題で少し揺れておりますけれども、私としてはアフガニスタンの復興計画の中でNGOが至るところと組んで仕事をするようになってもらいたいと思 っています。



「技術」よりも、コミュニティの人たちと共に働ける「人」を求めて

山崎拓: 新しい政府は十分に機能し始めたでしょうか?
マダブ・マテマ: アシュラフ・ガニさんという、 カルザイ議長が主催する委員会の委任を受けてアフガンへの支援に関する調整を担当する行政機関(AACA the Afghanistan Assistance Coordination Agency 直訳では「アフガニスタン支援調整庁」)の責任者の方とお話する機会がありました。 いまの暫定政権は様々な問題を抱えております。まずは政治問題、次にあまりに多くの国・ 人が支援の手を差し延べ、まさに混沌状態になってしまっています。それで私どもは政府に対してプログラムづくりの面でお手伝いさせてもらっています。ハビタ ットがプログラムづくりに支援している唯一の国連機関です。一番の課題はいかに迅速に活動を開始するかなのです。そこで、私は住宅再建が全てを開始する出発点になるということをアドバイスしました。雇用の創出、そして経済の浮揚にもつながります。これらは日本も経験されていることだと思います。  
非常に困窮した状態でございます。 机も椅子もテレビも電気も何もない、政府もそういう状態です。政府は自治体や市町村の建物の再建費用をイギリスやEUから得ようと努力しているところです。私どもとしましては、日本から住宅再建への財政支援をいただけたら、すぐにでも優れた強固な再建案を構築できると考えています。財政的な手当てができ次第、ボランティアの募集をWEBサイトを通して開始します。その際ボランティアの方には最低9 ヶ月間アフガニスタンでお仕事してもらうことになります。そこで学んでいただき、 実際に生活し支援活動をしていただくのに9ヶ月間かかるのです。
山崎拓: 若いボランティアの人たちがたくさん参加すればいいと思うのですが、 どの程度の専門家でなければいけないんでしょうか。
マダブ・マテマ: 実は専門性はそんなにいらないのです。そもそも日本の高度な専門技術が途上国でそのまま使えるわけではありませんから。たとえばこのビルのような建物を建てる技術はいりません。地面にすわって暮らす国では質素な家で十分なのですから。 それに、若い人はトレーニングすれば成長します。「技術」よりも、コミ ュニティの人たちと共に働ける「人」を求めているのです。  
日本の得意分野という意味では、ちょうど先週カブールに行きましたときに政府が強い関心を示していたのが、日本の土地再開発・再区画の技術です。日本 では25〜30年前から区画整理が始まりましたが、カブールの道路、排水溝 の整備などにおいてもやはり区画整理が重要になってきます。日本のスペシャリスト、日本のボランティアの方々とハビタットが協力して進めていければと思 います。これは私の夢なんですが、アフガニスタンの復興に少なくとも10 人の日本人ボランティアを確保したいと考えているんです。
山崎拓: それは国連ハビタット所属のメンバーとしてですか?
マダブ・マテマ: そうです。私の夢です。そのために市民の方々にできるだけ私どもの活動を知 っていただきたいと思って、普及活動にも力をいれております。例えば各専門スタッフが市民の皆様にレクチャーを行ったり、特に私個人は学生や学校にいろいろお伝えし、協力を呼びかけたいと思っているんです。
山崎拓: 十分実現可能じゃないかと思いますよ。日本人はボランティア・ス ピリットを持っています。阪神淡路大震災が起こった時、日本中から救援復興のためにボ ランティアが殺到しました。その時非常に驚いたんです。あのボランティ ア・スピリットで、国際的な場面でも大いに活躍できると思います。まさに電気やガス、水、道路など全部破壊されましたから、そこで身につけた経験、 知識がアフガン復興に役立つのではないでしょうか。
マダブ・マテマ: そうやって人々が参加することは日本にとってもアフガニスタンにとっても非常に良いことだと考 えております。日本は本当にアフガニスタンの復興に貢献していらっしゃるわけですけれども、 もっともっと、人と人との理解を深めていく時期になっていると思います。 日本人の善意を持った国民性を理解してもらう良い機会にもなると思います。
山崎拓: 本日はどうもありがとうございました。
マダブ・マテマ:

  (2002年2月23日 国連ハビタット福岡事務所にて)