(2002年2月13日 山崎事務所にて)


構造改革が実行されるの かが、世界の注目の的

山崎拓: 今、「日本の経済の再生をどうするか」ということが最大の課題です。 小泉政権は「聖域なき構造改革」をテーマとしており、「構造改革なくして景 気回復なし」と主張しています。外からご覧になって、どうしたらいいかということについて、 ご意見をいただければと思います。
チャールズ・レイク・U: 私は、アメリカ政府の関係者と定期的に意見を交わす機会があり、また、先日、オニール(米国財務)長官が来日された時にもお話するチャンスがございました。現在のアメリカ政府関係者の立場は、日本政府に対して高圧的に提言をするのというのではなく、アメリカにとって、ベストパートナーであり、同盟国であり、そしてアジアの外交政策の基軸である日本 を親友と考え、ディスカッションし、その中でサゼスチョンする、というものです。 日本政府の中ではすでに構造改革の課題は充分議論され、方向性は明確なのだとアメリカ政府は考えていると思います。そこで私が問題と考えるのは、実行するために様々な課題をどう乗り越えていくかということです。特に「聖域なき構造改革」の中で謳われている項目は、海外から見ても重要な課題だと思います。 医療制度改革の問題も、郵政事業の改革の問題もそうです。  
私は現在、アメリカンファミリー生命保険会社に勤めておりますが、10 年前にはアメリカ政府でUSTR(米国通商代表部)に所属し、日米のいろいろな交渉に参加しておりました。その時の交渉相手である大蔵省のスタンスは「護送船団方式」を基本的に守るというアプローチでしたが、現在は明確に日本政府の方針も変わって、金融庁は“自己責任原則による金融行政”というスタ ンスになり、グローバルスタンダードから見ても整合性がある活動が始まっています。 しかし依然として、多くの分野で整合性のとれないものも残っています。 その一例が「簡保」です。簡保は同じルールの適用を受けずに実質的に保険市場で民間の企業と競争しています。これでは「構造改革」を進めて行く上で、せっかく金融行政が良い形で変わっていても、市場に与えるインパクトが制限される可能性があります。 小泉政権がなさろうとしている改革を、基本的におかしいと思っている人 はアメリカ政府には少ないと思います。しかし同時に、いろいろな抵抗勢力がある中で、それを実行する事がいかに大変かも承知しています。どのようなタイミング 、スピードで、経済回復に向けての構造改革が実行されるのかが、世界の注目の的 になっています。まさに総理が「今年が本番」とおっしゃっていることが本当かどうか、世界は見ていると思います。



改革が実行されて初めて新しい社会の経済的なベースができる

山崎拓: 構造改革自体が、実は目的ではなく手段です。その最終目的は、大きく言えば社会変革 です。世論調査で見ると、経済の再生です。もっとわかりやすく言えば、景気回復です。それがもっとも国民が期待している事ですね。しかし、だんだん事態は深刻化していまして、結局、政権の支持率の問題、つまり実行力の問題の悪循 環を感じています。たまたま田中真紀子外相更迭事件で支持率がほぼ25%もド ンッと下がりましたけれど、それはひとつの契機であって、実は内包していた経済に対する不安、経済政策に対する不信、がパッと出たと思っています。 私は小泉総理をもっとも支え、もっとも小泉改革を推進している人間です。 決して構造改革の旗は降ろさないし、テンポも緩められません。「構造改革を進めるから景気が悪くなった」と言う人がいますが、その因果関係はないと思います。構造改革が追いつかない別の原因で、日本の経済の沈滞化が進んでいるのではないかと恐れているのです。
チャールズ・レイク・U: 少し理解できないのは、総理の支持率が急落した新聞の見出しです。 急落したといっても50数%ですね。これは歴代政権への支持率を見ても高いものです。 これだけの聖域なき構造改革の方針を明確に打ち出しているにもかかわらず、 この支持率は逆にすごいと解釈できるのではないかと思います。私はアメリカ 政府の仕事にも就いていましたし、現在もワシントンと東京を往復しているので、 米国流の政治の考え方はよくわかっているつもりですが、それは、支持率を絶えず意識して政策を行 うというものです。つまり、どうしたら国民のサポートを得られるか、またサ ポートしてくれる層がどこにあるのか見極めなくてはいけない、ということです。  
しかし、「失われた10年」を乗り越えるための改革は、それに対しての既得権やその他の抵抗がある中でたやすくできるわけではない。反対勢力がいろいろな所から出てくれば、それだけ強力な政治のリーダーシップが必要になります。改革が実行されて初めて、新しい社会の経済的なベースができますので、まさに山崎さんがおっしゃいましたように、構造改革は、中・長期的に見ても、ごく短期的に目の前の事を見ても、絶対にやらなければいけないことです。  
ただしそれは、マクロ経済その他の要因を見ないで闇雲にやることではないと思 います。アメリカ経済が停滞していなければ、輸出がある程度でき、日本経済を支えるベースとなったかもしれませんが、アメリカ経済の低迷、9月11日のテロ事件のインパクトもあり、外需主導による景気回復に期待するべきではないと考えます。アメリカの政府関係者、証券アナリストなどと話をしておりますと、彼らが懸念していることは、実質として構造改革がタイムアウト(時間切れ) になることです。たとえば田中前外務大臣の件で支持率が下がるというようなことで自信をなくし、心配する事によって、構造改革を断行できなくなるような政治環境が生まれた場合です。 問題を解決しないという状態が続くということです。それは、日本経済にとって決して好ましいことではないという見方をしていると思います。


パラダイスに達する行程を乗り切っていく実行力

山崎拓: 小泉政権の支持率が下がった事は痛手ではあると思いますけど、外務大臣を更迭したことによって支持率が下がったことを、内閣全体の問題と捉えていいかどうかと思 うのですね。川口新大臣が外交や外務省改革で手腕を発揮すれば、回復するはずのものです。 その面では、適切なリカバリーショットだったと思うのです。ほぼ25%支持率が下がったと先ほど申しましたが、その25%は、田中さんの人気も加味された、小泉政権の不安定な支持者だったわけです。いわゆる個人的な人気による支持率だったと思うわけです。ところが、それ以上に潜在化していた不安感が顕在化したのではないかと思 います。「単にいい役者だからと思って支持していたが、芝居自体がこれはあまりいい芝居じゃない、総理も良くない、ということで見るのを止めた」という感じの話だということを私は懸念するのです。
その良くないストーリーは、どんどん経済が悪くなるというス トーリーです。「こんなおもしろくない芝居を見れるか」ということじゃないかと思います。だけど「いや、かならず良くなるはずだ」と非常に実行力のあるク リアカットな改革政策を持ったリーダーシップが、将来必ず功を奏してハッピーエンドを迎えると見ているのがまだ55%あると考えたらいいと思います。 ところが、そのハッピーエンドはかなり先に来る、すぐに来ないのです。その途中の過程がジグザグコースで、難航するプロセスにおいて次々に脱落者が出てくる。「どうもこれは行きそうにない」と。向こうにパラダイ スがあると思っていたがどうもヘル(地獄)があるのではないかというような気になったときに、脱落して支持率が下がってくる。そうすると、パラダイスに達する行程を乗り切って行く実行力がなくなっていくわけです。権力基盤が支 持率にだけある政権ですので、そういう点を僕らは心配しておりまして、 当面の景気対策を誤ってはいけないという気がするのです。
それで、もうすぐ大統領がお見えになる(注:2月17日に来日)のですが、 たぶん不良債権の処理を強く勧められると思いますが、それに応えようと今小泉政権は準備を開始しております。不良債権の処理は必要な事はよくわかっておりますから、 どうもそれだけではない、そういう気がしませんか?
チャールズ・レイク・U: 川口大臣は以前、日本大使館の公使をなさっていた時がありまして、 当時私はアメリカ政府の一員として交渉の場でご一緒したことがあります。 その時の経験から申し上げれば、川口大臣は素晴らしい大臣になるのではないかと思 います。能力的な面はもちろん、海外の国々に対して日本の外交方針を明確に伝え、海外から高く評価される大臣になると私は思います。日本の外交にとって強力な人材です。
不良債権については、アメリカの経済界や関係者が議論しています。不良債権の処理をしなければいけない、不良債権が日本経済の活性化の障害になっているのではないか、という議論です。 しかし、不良債権の問題はある意味では現象であって、そのベー スにあるのは構造改革だと私は思います。たとえば、企業統治の問題もそうです。 キャピタルマーケットが、いろいろな形で合理的に動いていくようなインフラづくりがされなければならない。それは商法改正の議論だったり、会計制度の見直しだったり、金融システムの改革、より具体的に言えば株の持ち合いの解消ということも、そういう意味での株式市場の活性化につながり、システミックなネガティ ブ・インパクトが起きない環境をつくっていくことを意味すると考えます。
不良債権さえ解消すれば、日本経済がすぐにバラ色になると考えてはいけないと思 います。また、構造的な企業統治の問題、コンプライアンスの問題もそうですが、そういう課題への対応策を議論して行く中で、目の前に不良債権問題があるわけで、 これをなんとかしないと、こうした企業統治・コンプライアンスについても手がつけられない。 今、金融システムが大きな問題を抱えているのだから、当面の課題である不良債権問題をすぐに片付けて欲しいというのがアメリカの関係者の見方だと思 います。
日本としては「不良債権の処理はもちろんやるが、こういう全体パッケージの中での不良債権問題だ、当面やることはこれである、その上で1年後にこうやるのだ」という計画を海外に示し、より細かいレベルで理解してもらう努力をすれば、世界の日本を見る目が変わるかもしれないと私は思います。
山崎拓: 今おっしゃった中で、企業統治の問題は、個別の企業の体質改善効果のために大事なことです。 ただ不良債権の処理と、一方において金融緩和政策があります。たとえば軽いインフレを起こそうとか、企業の不良債権の処理のために金融機関に潤沢な資金を提供しようとか、 そういう目的を持って金融緩和政策を日銀がとっているのです。どうもそのやり方がまずいとか不充分とか、批判が集中して、「その元凶は速水総裁にある、彼が非常に頭が固かったりしてダメだ」という批評があります。私もずいぶんそのように考えてきたのです。 特に主力の金融機関は、金融緩和政策が進まないから資金難に陥っているのではないのです、 銀行には金がある。ところが、それから先のマネーサプライが流通を含めて経済実体の方に行かない、つまり金融機関の仲介機能が働かない、仲介機能 が低下している、というわけです。これは統計を見ればわかります。日銀の当座預金は15兆円も積んであるが、民間企業から先のマネーサプライはダウンしています。だから、そこに行かない原因として不良債権の問題が指摘されるわけです。 不良債権があるから、その処理が優先するから、ということで金が出て行かないのだ、という解釈です。私もそういう解釈をとっていました。ところが、 「どうもそれだけではない」という感じがします。経済実体の方でいちばん肝心 なのは売上です。拡大再生産が働いていない。結局、売上が伸びなければ、 雇用の問題もありますから企業として成り立たないわけです。だから、売上がなぜ伸 びないのか、もとをただせばそこだと思います。売上が伸びない理由は需要がないからです。“需要がなぜないのか?”というところまで行かないといけないと思 います。
需要がなぜないか、それは2つあると思います。ひとつは新しい魅力的 な製品が出てこない、購買意欲をそそるようなものがない、ということです。 かつては家電製品とか3Cとかトランジスタとかがあったのですが、今はない。 もうひとつは資産デフレです。地価が下がる、株が下がる、となりますと、どうしても商品に対する姿勢がすごくネガティブになるのです。自分の資産が寝ている間に増えれば、購買意欲が増すのですが、資産価値が下がると逆に貯蓄性向が上がるわけです。将来不安もありますよ。財政赤字などネガティブ要因もあります。枚挙したらきりがない。どうしても国民は将来不安を持っていますから、それを丁寧に除去しないと、結局不良債権に焦点を当てて「これだ!」とやっていると、システミックリスクをなくそうとしたのが、逆にそのリスクを起こすことになる、ということになる、そこを間違えているのではないかと思 うのですよ。



だからこそ民間の医療保険のニーズが出てくる

チャールズ・レイク・U: 日本は、従来のメインバンク制を柱とした直接金融から、そうではないマーケット中心の金融システムに移行しつつあります。ところが、インフラが必ずしも整っていないのが問題になっています。アメリカの投資銀行の関係者は、「不良債権を商品化するなどいろいろな金融工学を導入した商品を開発し、リスクをとった上でマーケットで販売しようとしても、インフラが整っていない日本では、法律や税法上の障壁が多くてなかなかできない」と嘆いています。
もちろん、アメリカでやっていることがすべて良いということではありません。 エンロンの事件を見れば明確なのは、あまりにも金融工学的手法を使いすぎて、 企業統治上の大きな問題が起きてしまうようなケースもあるということです。 しかし、ヨーロッパでもアメリカでも、いろいろな投資銀行が開発した新 しい金融商品があり、インフラの整ったマ−ケットで活発に取引が行われています。 ところが、日本では投資銀行や市中銀行が良い商品を開発し、建設的な活動をするような環境にはありません。 これについては「企業統治の問題があったり、法改正が必要だからできない」 という声をよく聞きます。こうしたインフラをつくることで、マ−ケット が活性化すると思います。
一方、消費者サイドからしますと、将来に対する不安が需要を抑えているのではないでしょうか。例えば、最近の調査では、介護・年金・医療、すべてを含めてですが、「高齢化社会の中では公的保障だけではまかなえない」 と思っている人が、60%から70%もいるのが現状です。そのような状況だからこそ民間の医療保険のニーズが出てくるのかもしれません。将来への不安を抱えているから自分のお金を使 わない、消費が伸びないということだと思います。
山崎拓: AFLAC(アメリカンファミリー生命保険)は、業績は伸びているのですか?
チャールズ・レイク・U: おかげさまで、アメリカ本社・日本社とも保険による収入やその他の収入もプラスで、業績は順調に伸びています。日本は、景気の低迷・保険会社に対する信用不安、さらには第3分野という保険分野が昨年から解禁になって、まさに競争が激しくなってきているのですが、 AFLAC日本社は順調に業績を伸ばしています。
山崎拓: ということは、将来不安があっても伸ばしやすい戦略をとっているのですか?
チャールズ・レイク・U: 当社は、格付け会社からAAという高い評価を得ており、不良債権も逆 ざやもありません。お客様に、この財務の健全性を信頼していただいていると思 います。また、私たちはがん保険や医療保険のいわゆる第3分野に特化しています。 将来の不安に備えて、個人として絶対にキープしないといけない保障のニ ーズがそこにあり、それは景気の影響を必ずしも受けないのかも知れません。 むしろ、将来に不安があるほど、ニーズが強くなる商品です。


いろんな意味で日本の文化と似ている

山崎拓: AFLACは日本に来て28年ですね。
チャールズ・レイク・U: 昨年の法人申告所得は、日本で活動している外資系企業の中で、日本IBMに次いで2番目に大きい額となりました。また、保有契約数は1500万件を突破し、日本生命に次いで2位になりました。日本国民の4世帯に1世帯が、アメリカンファミリー生命の保険に入っていることになります。 このように日本に深く根ざし、多くの消費者の方から支持をいただいていることもあり、 私は日本経済が早く回復して欲しいと願っています。そのためには、私は小泉総理がおっしゃっているように、「民間にできることは民間にまかせる」ということが大事だと考えています。 医療の世界でも、いろいろなデータを分析した上で、もっとも安い保険料で最大の保障を提供することを常に目指 している当社のような企業活動が、新たな価値の創造、イノベーションにつながっていくのではないかと思 います。また、医療制度改革の中でも、民間のやれることはかなりあると思 っています。そして、それを逆にビジネスチャンスにするのが私どもの責任だと考えています。
山崎拓: 日本は、アメリカを本社とするAFLACの中で大きなシェアを占めていると聞いたのですが、全売上のどのくらいですか?
チャールズ・レイク・U: 日本に進出してから28年間、ずっと成果を出してきた結果、先程ご説明した通り、 4世帯に1世帯は当社の保険に加入していただいており、日本での収入は全 体の70%を越えています。実は、私だけがアメリカンファミリー生命の日本 社ではアメリカ国籍の社員でして、郷に入りては郷に従うというか、日本市場で成功するには何をしたらいいのかはローカルのマネージメントに任せる、という考え方を当社は持っています。本社はジョージアという南部の州にあり、トップのCEOをはじめ本社の経営者は、信頼関係や長期の交流を大事にするというジェントルマンの文化を持っていますし、いろいろな意味で日本の文化と似ている部分が多くあります。 すべてアメリカ中心的に考え、行動するのではなく、日本と同様に、思いやりの気持ちをベースとした南部の会社のカルチャーもプラスになっているかもしれません。
山崎拓: なるほど……。あなたは高校がハワイですか?
チャールズ・レイク・U: 高校と大学がハワイです。
山崎拓: 大学院が東大とジョージ・ワシントン大学で、日本とアメリカと両方の文化をよく知 っているということですね。
チャールズ・レイク・U: そのようなバックグラウンドですから、日米関係がいつも良好であることを願っています。 ブッシュ大統領が来日して首脳会談が開かれ、日本の国会で演説することになりますが(注:この対談は大統領訪日前に収録された)、ブッシュ政権は、小泉首相ができるだけいろいろな形で前に進むことができるようにと考えております。もっとも頼りになる親友としてのアメリカ、またブッシュ大統領が、何をしたら総理のためにプ ラスになるとお考えになるのか、教えて頂きたいと思います。 実は、なぜこんなことを伺うかと言うと、アメリカ政府関係者の中でもいろいろな意見がありまして、 「歌舞伎のように、セレモニ−的な舞台が日本では大切であって、外圧をかけないとやりたいこともやれない状況にあるのかもしれない。 だからそれはセレモニーとしての外圧を目に見える形でかけなければならないのだ」 と言っている人もいます。もちろん、近年の政治環境を考えた場合、それは違うと私は否定したのですが、 アメリカの関係者の中でもいろいろな意見があり、ブッシュ大統領が訪日される際にどのようなメッセージを伝えるべきなのか、ということをまさに今悩んでいます。



日本の「聖域なき構造改革」を世界経済のために確実に

山崎拓: 私は個別政策でいろいろおっしゃることは必ずしも適当ではないと思 います。個別政策、たとえば安全保障や経済などの問題については、私の古いアメリカの友人たち、政府の高官が多いのですが、彼らから大統領にどういうことを言わせたらいいのか、 といったことをサウンドしてこられます。いくつかあるのはあるのですが、大統領ですからね。小泉政権を支える大掴みのメッセージがいちばんいいのではないか思 います。アメリカは、“小泉さんの『聖域なき構造改革』に期待している” その一言でいいと思います。いろいろあると思います。不良債権の処理をせよ、 とかRCCに不良債権を全部買い取らせてはどうかとか、そういう細かい提案はあると思 います。アメリカの場合はその先にそれを埋めるという話があるからでしょうが、 私の場合は買い取って塩漬けにするという考え方を持っています。そういう違いがありますけど、そういうところまで踏み込まないで、大掴みに支持してほしいということです。
田中外務大臣を更迭してからの支持率の低下は、そんなにリカバリーする必要はありません。いまの支持率はいいと思います。不安感はありません。 いままでの支持率がサーカスみたいな感じがして、80%くらいの時は、下にセーフティーネットが張ってないときだったから落ちたらおしまい、という空中ブランコみたいなことがありました。いまの50%くらいだと、実際にセーフ ティーネットを張ってブランコをやっているような感じで、かえっていいと思 います。日米関係が両国にとって大切なのは共通認識ですから、アメリカ の国力に対する評価は経済的にも軍事的にも高いので、それでいいと思っています。 基本的な日米関係は少なくともあと3年は続くわけですし、小泉政権もそんなものですから、その間は両政権がスクラム組んでやるということが浸透すればいいと考えております。
チャールズ・レイク・U: 山崎さんのおっしゃったことは、まさに大統領がお考えになっていることだと思います。 やはり、日本に期待しているアメリカの関係者は多いし、特に共和党政権の人は、日本を最も重要なパートナーとして考えています。
これは、リップサービスではありません。 山崎さんが親しくされているアーミテージさんがいちばんいい例かと思います。 それ以外にもアメリカ政府関係者でそう考えている人はたくさんいます。 大統領の基本的なメッセージは、まさに小泉総理に頑張っていただきたい、 日本の「聖域なき構造改革」を世界経済のために確実に進めていただきたいということだと思います。 アメリカ政府の考え方は基本的に9月11日以降さらに進化してきており、経済問題は安全保障の問題でもあり、日本経済の回復は世界経済に、また安全保障に重要な課題だと考えており、小泉首相に対する期待は大きいと思います。
山崎拓: 9月11日の事件のあと、小泉総理は7項目の対策を出しましたが、その中で1項だけ経済があるのですよ。あの事件以来、一時的にアメリカの経済は停滞しました。すでに今は回復期に入りましたが、アメリカの経済は世界の4分の1を占めており、日本も10%以上を占めているわけですから、 ここはしっかり日本が協力していく必要があるという認識で、ここはひとつ“日本経済の再生を図る”というのを入れたのです。
全部安全保障に関するすることばかりだったのですが、経済安全保障も入れようということで、私が無理やり入れてもらった。 あとの6項目はよくやれたと思いますが、肝心の経済の再生の方はできてないのが残念です。



アメリカでは病院の経営者のほとんどがMBAを

チャールズ・レイク・U: 本当にそうですね。9月11日後の日本政府の対応は、世界的に評価されています。アメリカ政府の関係者も、当初は、期待外れの行為がとられるのではないかという心配をしていたのかもしれませんが、今は、日本はまさにアメリカと一緒に立ってくれたという気持ちがすごく強いと思います。先ほど山崎さんは、小泉総理は国民に直接アピールできる方だと仰られましたが、アメリカの大統領もやはり議会との闘いになったり官僚との闘いになると、 直接国民にアピールすることによってリーダーシップを発揮するという方法をとります。小泉総理はそれができる方だと思います。成功例がたくさんあるのに必ずしも自己宣伝をなさらないのは、日本のスタイルかもしれませんが、そのへんはもっと大統領的に 「あの時にこう対応した、それによって世界の信頼を強く得た、また、今回もこういうことをしている」と国民にリマインドするのもいいと思います。 タウンミーティングが行われていますので、その機会にアピ−ルするのも良いかもしれません。
山崎拓: いいかもしれませんね。その点、非常に拙劣ですね。ただ、マスコ ミは常に批判的ですからね。
チャールズ・レイク・U: マスコミは世界を問わず、そうなってしまうのかもしれませんけど……。
山崎拓: 日本の医療制度が3割負担になるギリギリまできているのですが、 アメリカは日本に比べて少し遅れているのではないですか?医療制度とか保険制度 とか。日本を見ていて今の状況をどうご覧になられますか?
チャールズ・レイク・U: やはり基本的なスターティングポイントが違うと思います。政府が行わなければいけない保障と、民間の役割がスターティングポイントから違うのです。 米国でも医療制度改革は絶えず議論されています。クリントン政権でやろうとしたものもありますし、その前にやろうとしたものもあります。生産性を高める作業をさせた結果、それによって新しい医療技術を導入する、病院経営をさらに効率化させるようなことが、医師会など絶えず反対意見がある中で行われてきました。もっとも、その制度 を全国民が利用できているのか、アクセスできているのか、という点は必 ずしも充分ではないかもしれませんので、それはアメリカの課題として残 っていると思います。
日本の医療制度改革についても、たとえば在日米国商工 会議所でもいろいろな議論をしています。医療制度改革について、アメリカ のやり方が正しいかどうかは、まだ議論の余地がありますが、例えばアメリカ では病院の経営者のほとんどがMBAを持っています。日本のように経営者は医者でなければならないということではありません。医者の倫理規定、 倫理観をすべて忘れて病院経営をするのも困りますが、医療ビジネスをどうやって経 営していくかは、逆に経営のプロがやった方がいいかもしれません。アメリカ のシステムの中でうまくいったのは、病院の効率化であったり、医療に必 要なリソースを適切に提供するようなシステムだったと思うのです。 すべてに完璧なシステムはありえないと思います。また、日本ほどではないにしても、高齢化が進む中でいろいろな問題を抱えているアメリカですが、日本ほど医療システムに対して抜本的な不安を国民が抱えているということはないように思います。 それはいろいろな理由があり、投資信託が広く使われており、自分の老後がある程度 保障されていると考えているかも知れませんが、自主的に民間のシステムを活用 し、自分で老後に備えて準備しています。



日本で切るか、リスクの少ない放射線治療のためにアメリカに飛んで行くか

山崎拓: 日本人は望みが高すぎるということでしょうか?
チャールズ・レイク・U: いいえ、公的医療システムで完全にサービスが提供できているのか、 ということではないでしょうか。日本に来てとても理解できないのは、大きな病院で4時間待たされて、やっと5分間医者に会えるなど、顧客視点のサービスができていない点です。アメリカでもそういう時代がありました。私は元弁護士で、いまは会社経営者の仕事をしていますので申し上げるのですが、弁護士も医者も専門的な職業ではありますが、あまり自分のステータスについて勘違いしないで、率直な意味でビジネスをやった方がいいと思います。何時間も患者を待たせるのはシステムの問題だと思います。米国ではアポイントを取るシステムにすることによって待つことはほとんどなくなりました。 もちろん、アメリカ型のシステムがいいのか、日本のように長時間待つけれども誰 にでも必ず保障があるシステムがいいのか、そう簡単に整理できることではないと思 います。しかし、高いレベルの先端技術を導入し、みんなが使えるような環境をつくることは大切だと思います。
たとえば、弊社の日本での会長を務めている大竹、彼は28年前にがん保険をアメリカから持ってきた人物ですが、実は昨年がんが見つかりました。私たちはがん保険の専門会社ですので、 いろいろな研究、医療へのアクセスの情報などが集まっています。 そして、 いろいろディスカッションした結果、最終的に、アメリカに行って治療することにしました。 なぜかと言うと、日本で認可されていない治療がアメリカでできるからです。 これは放射線を使った治療で、しかも日帰りです。ところが、この治療方法 は日本では認可されていません。日本で治療する場合は、手術を受け、身体を切らなければいけない。日本で切るか、放射線治療のためにアメリカ に飛んで行くか、どちらにするかを考えアメリカを選んだわけです。
これは医療制度の問題です。 ですからすべての人にある程度のレベルの医療体制を保障するかわりに、一定の規制で縛るのか、最高最新の医療を望む人に提供できる体制にするために規制を緩和するのか、という選択ではなく、規制緩和を進めて両方のシステムの良いところを併せ持ったものにすべきです。日本の医療制度改革の中身について、私たち外資系の企業も注目していますし、可能であれば政策論争にも参加させていただきたい。アメリカでうまくいったものとうまくいかなかった部分を、ぜひ情報提供させていただいて、その上で医療制度を議論すれば、国民のためになるシステムをつくる作業に貢献できると考えています。
山崎拓: 小泉政権は対がん戦略を重視しておりまして、政策の売り物にしてますよ。 目玉政策のひとつですね。私はガンセンターに併設する研究所を建設しようと考 えています。
チャールズ・レイク・U: 素晴らしいことですね。  ぜひ、研究を進める環境を整備していただくよう期待しております。
山崎拓: おつきあいいただきありがとうございました。勉強になりました。
チャールズ・レイク・U: こちらこそ、お話しする機会を与えていただき、ありがとうございました。

(2002年2月13日 山崎事務所にて)