(2002年2月18日 山崎事務所にて)


先進国の日本には「当然、環境教育はあるんだろ?」と

山崎拓: 経歴を拝見して、お若いのに7大陸の最高峰を登頂なさったとか、 驚きましたな。若くして成功を収められたことを本当に素晴らしいと思います。 16歳でモンブランに登頂。25歳までに南極を含めて7大陸の最高峰を全部極めたという、 今の子どもたちに、若者たちに夢を与えてくださっているうえに、最近は環境保全 の活動もされていると聞いていますが。
野口健: はい、99年に7大陸の挑戦が終わったのですが、97年に初めてエ ベレストに行った時に、国際隊という形で参加したわけですね。隊長以下11人いたんですが、西洋人が主でした。その時に、ゴミがたくさんあることにまず驚いたんです。
山崎拓: エベレストに?ゴミがたくさん?
野口健: はい。エベレストの高いところにたくさんゴミがあって、その中で過去の日本 隊のゴミがかなりたくさん……。
山崎拓: ほ〜お。事実なら恥ずかしいことですね。
野口健: それで西洋人の登山家からの日本隊に対するバッシングがかなりあったわけです。
山崎拓: 日本隊のゴミだとわかるのですか。
野口健: ええ。国際隊の中にいて、日本隊のゴミが批判されて、その時に「 日本は経済は一流だが、文化はまだ三流だ」と言われてしまって、その言われ方に正直ムッ として、反論しようとしたのですが、やはり日・中・韓、そしてロシアの登 山隊のゴミが確かに多いんです。それに対して、西洋人のイギリス、あとスイス、ドイツ、オーストリア、カナダのゴミは極端に少ないわけです。これでは反論 できない。反論できないで日本に帰ってきて、日本の山の関係者に「エベ レストに日本のゴミがたくさんあった」という報告をしたら、いろんな間接的 な表現でしたが、それを公にしちゃダメだ、というような話なんです。日本が捨てたゴミも氾濫しているわけですから、それに対する僕なりの怒りみたいなのがあって、それを回収しないと恥だと。隠そうとしても隠せるわけではありませんから、2000年から清掃登山をやろうと決心したんです。おととし、去年とやってきて、あと今年と来年と2回予定しています。
清掃隊の活動には目的がふたつあって、ひとつは8000mにある最終キャンプに登ってゴミを「回収」する、それがひとつですね。もうひとつの役割として、 あそこはヨーロッパからもアメリカからもアジアからも世界中の人が集まって、みんな同じ条件で登山をやってますので、みんなが自然に対してどう接しているか、登頂して、ゴミに関してどうするか、を「観察」するのがひとつの役割なんです。
観察しておりましたら、ゴミを置いていく登山隊と持って帰る登山隊とに大きく分かれます。 それが地域的に分かれるんですね。どんな厳しい条件にあってもゴミを持って帰ってくる登山隊、たとえばドイツ、オーストリア、デンマーク、ノルウェ ー、あとカナダ、ニュージーランドが入りますね。こうした国は非常にきれいにするのですね。 特にデンマーク隊でびっくりするようなことがありました。2年前、隊員が滑落し遭難したんですが、仲間を失ったにもかかわらず、最後、2日間かけてベースキャンプ周辺を掃除して帰ったというんです。 これに反して日・中・韓・ロのゴミはドンと残 っている。「その差はなんだろうな?」とずっと考えてました。そのうち、エベレストに登ってゴミをたくさん置いていく登山隊の国に行くと、その国が汚かったり、逆にゴミをしっかり持って帰ってくる登山隊の国は環境に対する意識が高いという傾向に気がついたんです。最初は「日本の登山家はマナーが悪い」という批判を受けて立つために始めたんですが、やっているうちに、登山家うんぬんではなくて、エベレス トの日本のゴミは、ある意味で日本の社会の縮図じゃないのかな?って、なんとなく行き着きました。
英国人の登山家が「なぜ日本人がゴミを捨てるのかわからない」と言うのですね。 経済的に苦しくて、明日生きていけるかどうかも危うい人たちに、環境を守る余裕はない。でも、日本人は生活が保証されているじゃないか。衣食が足りれば次は環境のことを考えているはずなのに不思議だと。もうひとつ彼は「日本人は教育を受けているはずだ」 と言うんです。“教育”についてはたくさんの人から指摘されました。正直、僕は最初ピンと来なかったんです。ドイツとカナダの人が教えてくれたのは、 教育の前提に「環境教育」があるということです。デンマークの方は、小学校などの義務教育に、国語とか算数とか理科と並んで「環境系授業があるんだよ」 と。自分たちは当然のこととして環境を習ってきた、先進国の日本には「当然、環境教育はあるんだろ?」と。
日本人は環境に対してはまだモラルが低い、と言われてるんですが、「 ああ、環境教育が欠けてるんだな」と実感しました。そこで、カンボジア 大学に環境教育学部というのがあったものですから、昨年から大学院に在籍しながら、回収したエベレストのゴミを持って、多くの人に、特に子どもたちに見せたり、 話をしながら全国を歩くようになりました。この2年ほどは夏に、子どもたちと一緒に富士山の清掃をやったりしています。これからもそういう分野での挑戦をしていきたい、 やっていきたいなと思っています。



まず納得させる、もしそれでもだめなら罰則を課す、というシステムが

山崎拓: なるほど、素晴らしいですね。多分日本は、あなたがどう判断されるかわかりませんが、 環境「中」進国くらいじゃないですかね。東京にはゴミが少ないとほめる外国人がいるんですね。世界の都市を回ってね。ヨーロッパの都市より少ないと聞いたことがあるのですが、もしそれが事実だとすれば、東京だけはきれいにしているが、他の国に行 ったら地が出る、と言うか、まだ充分教育訓練が行き届いてない、環境先進国の仲間入りをしていない弱点が出て来ると。
たとえば私の地元の福岡市は、ほんとにゴミが少なくてきれいだと思うのですが、それは市役所とか行政が頑張っているんだと思います。市民ひとりひとりの意識がどこまでいっているのかはわかりませんが。 日本は環境の面においてまだ後進国ですか?どうでしょうか?
野口健: 富士山に行っていつも驚くのですが、山頂に自動販売機がずらりと並んでいるのは、世界中の山の中で富士山だけだったんです(笑)。また、山小屋のトイレ、これが一番大きな問題なんですが、 ほぼあそこで垂れ流しちゃうんです。年間30万人とか40万人の入山者があります。 山小屋の方に話を聞きましたら、それだけたくさんの人がトイレにやってくる、自分たちで処理をしたら破産すると。たしかにそうだと思うんです。マッキンリーという山、アラスカの山なんですが、上村直己さんが遭難されたところです。 僕が感心したのは、あそこは国立公園の中にあるんですね。ここでは入る時に、1時間から2時間強、レクチャーを受ける義務があるんです。あのあたりは氷河で、山小屋などまったくないとこですから、自分たちが出したフンを自分たちで持って帰ることが義務付けられています。氷河にはバクテリアがいないので、フンは分解されません。 年間何千人もの人たちが来るわけですから、そのままだと氷河がフンまみれになる。 氷河の末端は川につながってて、その川の周辺には村があり、その村人は氷河の水で生活している。氷河が汚染されたら地元の人は生活できない。「当然お前たちは自然を楽しみに来ているのだから、フンを持って帰れ」ということでスライドを見せられ、いろんな説明を受けるわけです。僕らには日本語のビデオを見せてくれました。そういうレクチャーを受けて僕らは納得するんです。 「ウンチはゴミなのだ」と。なるほどなと思うんですね。それで、初めて入山 が許可されて、入山料を払うんです。その入山料で“レンジャー”というパ トロール隊が組織されて、国の予算もあるんでしょうが、徹底的にパトロー ルしています。だから話を聞いて納得してお金を払って、やっと入山し、自分たちが出したフンを持って帰る。約3週間分ですから、僕はこのくらい(手で示す)ありました。穴を掘って隠しても多分ばれないんですが、みんな正直に袋に入れて持って帰 っています。それはなぜだろうな?と考えてみると、なぜゴミを捨てたらいけないのか、納得しているということだと思います。もし、僕らがゴミを置いてきて、レンジャーがそれを発見すれば、ものすごく厳しい罰則が待っているわけです。 まず納得させる、もしそれでもだめなら罰則を課す、というシステムが見事だなと思 いましたね。
その点、日本の富士山はどうでしょう。まず山の上に業者が来ます。トイレも垂れ流します。登山者のゴミも以前に比べるとずいぶんマシになったと言われていますが、 まだそれでもひどいんです。ヨーロッパの山岳会の会合で、「ヒマラヤはマウントフジのようにするな」という話が出るんです。僕は小さい時に海外 に住んでて、マウントフジは美しくて有名なのかな?と思ってました。違うんです。 富士山を世界遺産に登録しようとしたら、調査委員会が来日して「あまりにも汚いから却下」という話が以前ありました。去年、白神山地や屋久島を歩いてきて、世界遺産なのに汚くなっていました。白神に関しては青森県が立ち入り禁止 区域とか禁猟区とかいろんな条例を作ったんですが、罰則が抜けてますから、ほとんどみんな無視しているんですね。屋久島もそうです。ゴミはかなりひどかった。
第一、レンジャーが日本には200人前後と少ないんです。環境省に聞いたら、北海道に約60人のレンジャーの方がいる。天然記念物のシマフクロウが80羽ほど確認されてて、愛好家がその写真を撮りに行きます。シマフクロウ と出会うよりも、レンジャーと出会う確率が少ない。それで彼らはレンジャーを発見すると、喜んで写真を撮るんです。それくらいレンジャーが少ないわけなんです。 環境教育で全体のモラルを向上させると同時に、どんなに説明しても守らない人が必ずいますから、法的にビシッと取り締まるシステムを整備して二本立てでやらなければ無理じゃないかないかと思 います。
橋本(龍太郎・元総理)先生にご紹介いただいて環境省に行って、「富士山の入山料をなんとか実現したい」とお願いしました。しかし、80年代半ば頃に“尾瀬の入山料”というのを検討した時があって、地元と山岳会、特にマスコミがかなりそれに対してバッシングしたんです。その頃はまだ環境に対して自己負担 をするという発想がなかったんです。当時の新聞を見ると、“自然を楽しむのになぜお金が必要か?”とか“国立公園から国民を遠ざける気か”とか、そういう記事が多かった。 それで、結局実現しなかったんです。環境省の方は「長年のテーマとして入山料があるが、ただ以前失敗して叩かれた、だからなかなか提案できない。 国民が自然に対して自己負担してまでも、山に行きたい、自然を楽しみたいという社会ができたら、 その時はぜひ入山料をやりたい」とおっしゃってました。20年前に比べれば、 おそらく環境に対する意識が根本的に変わっていると思うんです。
人間が行けば当然ゴミは出ます。富士山ではバイオトイレを部分的に地 元とボランティア団体がつくっていますが、一基作るのに4〜500万円 かかるんです。ボランティア団体ではとても作れない。年間40〜50万人くらいの富士登山者から、ひとり1000円取るとそれだけで4〜5億円集まる。それに国の予算が付き足せば、バイオトイレが実現するでしょう。ただ、このお金はバイオトイレのこういうところに使います、と明確に説明して納得してもらう必要がある。全国のあっちこっちで講演してみると、だいたい8〜9割は賛成なんですね。そこが20年前とずいぶん変わっているところだと思います。



汚染されたデータが出た時には、もうどうしようもない

山崎拓: 富士山と言えば、”夜目遠目傘のうち“という言葉がありますね。 夜見たとき、遠くから見たとき、傘をさしているとき、女性はよりきれいに見える。 けれど、実際はそれほどではない、という意味なんですが、たとえ話として使 いましたら、それは女性差別用語だと言われまして。
野口健: それ、女性差別用語になるんですか?
山崎拓: ええ、それでその言い方を止めて、今度は「あの人は富士山のような人 だ」と言うようにしています。遠くから見たらすごくきれいだが、近くから見るとかなり汚い。 私は実は登ったことがないんですが、富士山を近くから見ると岩肌やなんかで名峰富士という感じじゃない。山中湖くらいから見ても、遠くから見た感じと比べるとずっとゴツゴツしている。それが、実際に世界遺産に登録できないほど汚いというのはシ ョックでしたな。環境問題は人類の生存に関わることですから、身近なところから改めていかなければならないでしょうね。 また、私は人間の排泄物は、いずれ溶けてなくなると思ってましたから、 それがそのまま残るなどというのは意外でした。
野口健: 温度が低いと、有機物を分解するバクテリアが働かないんです。エベレストはこれまで1000人ほどが登頂に成功していますが、約300人が遭難してるんです。その遺体はほぼ回収されていませんので、8000mから上には遺体がいたるところに転がっているんです。分解されないので、自然に永久保存されています。今年はネパールの政府の方から遺体の回収をしてくれと言われて、困ったな、と思ってるんです。富士山みたいに火山灰でできたところや氷河では、バクテリアが少ないので腐らない。上空から富士山の映像を見たんですが、山小屋があってその下に白い川が何となく見えるんです。で、それをズームインしていきますと、長年流してきたトイレの跡なんです。トレットペーパーがずーっと乾いて残 ってるんですが、し尿だけは地面に染み込む。このままだと、やがて周りの湧 き水もやられるだろうと言われています。
環境省の方に入山料やバイオトイレ、なぜすぐやらないの?と聞きましたら、水が汚染されてて、その原因がこれだという確実なデータが出ない限り、なかなか提案できないとおっしゃってましたが、汚染されたデータが出た時には、もうどうしようもない。専門家が調査すれば、何万人の人のし尿が何十年 と垂れ流されていれば、いつ頃危なくなるか予測可能なわけですから、どう対応をとっていくか、という段階だと思います。もうひとつ、入山料が今までなかなか実現しなかった要素として日本の国立公園は国だけの財産ではないんですね。私有地もずい分入ってます。富士山は山梨県と静岡県と分かれてますし、8合目から上は神社の持ち物なんです。 アメリカみたいに国立公園は国のもので、完全に100%関与すればコントロールが効くんですが、日本はなかなかそこのところが効かない。あとは、お金を取ると観光客が来なくなるという地元の方々の反対があって、多分、これが一番のネックだと思います。僕のホームページで、富士山の入山料、賛成派、反対派と意見を集めているんですが、ときたま地元の山小屋とかの経 営者の人から反対意見があります。「皆さん賛成してますが、一人1000円払ってでもあなたは富士山に来てくれますか」と。この間、富士山を掃除してましたら、いろんな登山者が、僕の入山料についての主張をどっかで見てて「入山料いいですよ。できたら私は払います」と言ってくれました。もうこれからは多分、伝え方によっては可能になってくるんじゃないかなと、そんな手応えを感じています。
山崎拓: 受益者負担の原則も税制、社会保障と似ていますね。制度を維持するために、 一定の負担を求めるという考え方で設定するわけですが。環境を守るという視点 で、社会的な使命として負担してもらって、その資金で対策を打つということですね。
野口健: そうです。
山崎拓: そういう自分の利益と負担の関係ですね。医療の場合は国内の国民レベ ルの話だけれども、環境の問題は世界レベルになりますからね。単に富士 山の環境だけではなくて日本全体、世界中の環境ですからもっと大きな問題かもしれませんよね。


プラスで考えればもっとプラスになるのにな、と

山崎拓: バイオトイレってどんな風に作るんです?どんな性能になってるんですか?
野口健: 杉チップなどが入ってるんです。そこにフンをしますと、中でバク テリアが分解してくれるんです。5合目、6合目は順調にバクテリアが分解してきれいな水だけを流せるようになってるんですが、ほんとに寒いところではバクテリアが機能しなくて、山頂付近ではまだ上手くいってないんです。ただあそこはブルドーザーが通ってますから、夏はブルをチャーターすれば、トイレが回収できます。その分、予算が、お金がかかりますから山小屋の利益 ではおそらくできないと思います。各山小屋にはチップ箱が置いてあるんですが、この間見てましたら10人に1人、入れるか入れないかなんです。その上、誰かがそれを壊して中のお金を全部……。
山崎拓: 悪いヤツがいるもんですね。
野口健: やはり環境教育、子どもの時代からのテーマとして環境。もうひとつ、どうしても守れない人間からのペナルティー、これは必要だと思います。白神でも屋久島でも環境、環境ってかなりやってるんです。白神で地元のマタギの方に会った時、日本にもこんなにきれいなところがあるんですねって言ったんですが、45年間、白神の中で生きてて、狩りをやっているその人に言わせると、相当汚れてる。一緒に歩いてもらうと、まず、禁猟区なのに釣りをした跡がいっぱいあるんです。テントの潰れたやつとか、缶詰の空き缶だとか、とにかくいっぱいゴミがあって、僕らはそれを回収して、2週間後にもう1回そこに行ったら、またゴミの山 。マタギの方は青森県から委託されてパトロールもやってるんです。ただ彼には権限がないんです。注意はできるんですけどね。ひとりでパトロールして注意すると向こうは何人もいて、逆に言い返されて、それでときには身の危険も感じることもあるんだそうです。パトロールするのも相当大変だけれども、青森県からもらってるお金はガソリン代にもならない。だから逆に自腹を切ることが多いらしいんです。パトロールするのにですね。ゴミを捨てる人や、禁猟区で釣りをする人を見つけて注意しても逆ギレされる。アメリカの国立公園のレンジャーは威厳があって、大学にもレンジ ャーになるためのコースがあります。将来、レンジャーになりたいという高校生もたくさんいます。彼らには逮捕特権もあります。
この間、11月の東大駒場祭で川口環境大臣(当時)と対談したんですが、 京都議定書の罰則がどうしても実現しなかった。ヨーロッパの方からは、 約束した数値が守れなければやはりペナルティーが必要だと。それに対してなかなか日本は、うんと言えなかった。経団連の圧力ですか?と訊くとうんとは言わなかったですが、 いろいろありましたとおっしゃっておられました。逃げ道を作ってしまったのかなとか、いずれアメリカも参加できるような形での方法だったんだろうな、といろいろ考えさせられました。その点、東京都の石原知事はディーゼル規制の条例を作り、その中で罰則を含めました。この間トラック協会で講演したんですが、あの時トラック協会とかいろんなとこがワーッと大騒ぎしましたが、都の条例ができて、何とかしなきゃいけない、必死にいろいろやってると協会の方はしきりにア ピールしておられました。おそらくあの条例ができてなければ、そういうことにはならなかったと思 うんですね。  
京都議定書の問題では、僕は専門家ではないんですが、アメリカと比べて日本だけが厳しい条件の中で競争しては勝てないんではないか、という意見がありますね。当然、日本の企業に厳しい条件が付けば、その分コストがかかる。アメリカ はそれを守らない。コストの問題で日本は勝てない。逆に、今、ハイブリッドカー、トヨタなどが作ってますね、エスティマ、プリウスとか実際それが商品になって街中これだけ走っている国は世界中で、日本しかありません。ヨー ロッパもBMWやベンツなどが実験をやってますが、まだ発売されてない。 日本は、不利な厳しい条件の中でさらに開発していけば、日本のハイテクでひょっとしたら、環境先進国の中に入っていけるんじゃないかと。たとえば、少ないエネルギーで車がこれだけ動くとか、クーラーが動くとかですね。ハイテクでもって何かひとつ日本は世界の中でアピールできるんじゃないかな、と思うんですね。プラスで考えればもっとプラスになるのにな、と思うんですね。マイナスに考えると、日本はなかなか生き残れないんじゃないかと。
山崎拓: やはり日本は中進国なんですな。進んでるところもあれば、非常に遅 れているところもある。環境レンジャーという存在も、今初めて知りましたが、なるほどと思いました。ちゃんとした定職にする必要がありますね。生活していける水準にしないと。 使命感をもってやれませんね。



環境専門家をどんどん育てるというのは、雇用の新しい可能性

野口健: ほんと、そう思うんです。今、ボランティアの方が一生懸命やってるんですね。 ボランティアは素晴らしいと思うんですが、それだけに頼っちゃいけないはずだと思 うんです。しっかりとした職業としてのプロのレンジャーを作るためには、やはりそれなりに教育もしなければなりませんし、それなりにお金もかかることです。ガラパゴスでは専門学校があるんですね。学校で1年間くらい勉強して、資格をとって初めてレンジャーやガイドになれる。誰でも彼でもレンジャー になったりガイドになれるわけではないんです。  
去年、東京都の小笠原何とか委員会で、1年間いろんな方とお話したんです。小笠原にしかない動植物が約200種類と聞いていますが、やはりレンジャーがいません。今はまだ行くのに相当時間がかかりますが来年以降、高速艇ができる話があるんですね。高速艇ができてしまうと当然、人が大量に行く。僕なんかは入島料を取れば良いと思 うんです。屋久島もそうですが。そのかわり、たとえば旅行ツーリズムで専門の教育を受けたガ イドをしっかり置いて、イルカや鯨が自然の中でどう生きているか、自然 の生態系の説明もしっかりしながら、ただ単に、うわっきれい、で終わるのでなく、もうひとつ踏み込んだ観光ということを目指せないものか。コストは、みんなの入島料でまかなおうとかね。また、あそこで走っている車は全部ハイブリッドの車にしましょう。環境をテーマにして、他の場所との差別化を明らかにした島にすれば、仮に入島料が3000円でも4000円でも、日本人は多分お金を払ってでも行くと思うんです。屋久島や白神の地元の人は悲鳴をあげているんです。屋久島のガイド協会の人とお話いたしましたら、もうこんなに人が来てくれるな、と言うんですね。世界遺産になったことは迷惑だ。人がバーッと大量に来て、みんな自然を荒 らして、とっとと帰っていく。自然が汚くなったと批判されるのは俺たちだ、と。  
アメリカ型がすべて良いとは思わないんですが、ずいぶん参考になるんじゃないかなと。逆にヨーロッパへ行くとそれほど厳しい罰則はないんですが、でもゴミが少ない。おそらくあちらは環境教育が徹底されて、モラルがあるんでしょうね。これからの日本は、ヨーロッパ型の環境教育とアメリカ型の規則を足して2で割って何か工夫すれば日本型ができていくのかな、と感じるんですが。
山崎拓: 日本には、中庸の精神が根底にあるから、そういうシステムがうまく働くのかもしれませんね。 いずれにしても環境という分野はこれからすごく重要視されてくると思いますよ。 バラ撒きの財政ではいけないので、小泉構造改革では、環境、バイオ、IT などの重点分野を決めて、取り組んでいます。今おっしゃったように環境レンジ ャーみたいな試みをボランティアでなくて、専門でやっていけば新しい雇用 も生まれますね。これもうんと増やして良いんじゃないですか。今、木こりを増やす政策をやっているが、それよりも環境レンジャーの方が効果的じゃないかなと。
野口健: 公共事業が削減されていく中で、おそらく環境型公共事業は新しく増やしていける分野ではないでしょうか。 今までは道路とか橋とかがほとんどですね。それに頼ってきた地域の人の失業率は当然 高くなる。地域の若い人にレンジャーになるような環境教育を受けてもらう。 屋久島だったら屋久島の若い人が環境教育を受けて、屋久島のレンジャー になるとかです。
山崎拓: 教育とおっしゃったんですが、今、介護の新しい制度が始まってヘルパーなどが不足しているんです。ヘルパーなどの人材を、1年とか短期なんですけれど教育して、一生懸命養成してるんです。それと同じことで今1年で環境教育やるとおっしゃったんですが、その必要性はうんとでてくると思いますね。環境専門家をどんどん育てるというのは、雇用の新しい可能性じゃないでしょうかね。



突っ込んで死んでしまったら失敗ですが、悪天候で引き返すのは正しい

山崎拓: 若い時代に挑戦するということが大切ですね。私はかなりわんぱくな子 どもでした。喧嘩して相手をいじめたら報復を受けて、それで小学3年のときに片目を失明したんです。それからちょっと人生感が変わりましてね、他人の痛みがわかるようになりました。 自分のことに引き換えて、他人が嫌がることをしない、他人が痛がるようなことをしないという徹底した気持ちで生きてきたつもりです。まあしかし、強くならなければならないので、護身術である柔道をずっとやって体を鍛えてきました。あなたの経歴を見て、反発して新しいことにもチャレンジしてきた、ということを自分の経験からしても大変良いことだと思 いました。もうひとつは、可能性を信ずるってことですね。登山も登るか登 らないか可能性の話ですが、可能性を信ずるというのは私の座右の銘です。私は政界でも裸一貫叩き上げでして、親戚に政治家はひとりもいない。今は二世三世の政治家ばっかりですが。私はまったく政界では孤独な人間で、チャレンジとかチャンスとかパイオニアという言葉が好きなので、あなたの生き方にはとても共鳴します。
野口健: 日本に限らずそうかもしれないですが、結果がすぐに出ないという事、失敗するということを非常に怖がる傾向がありますよね。たとえば、私はエベレストに2回失敗してるんですよね、1回目は自分の力不足だったんですが、2回目は残り数百mというところで、天気が急変してぎりぎりまで悩みました。もしこのまま登頂すると生還できる可能性はおそらく50%。ああいう場所ですし、1年目の失敗でバッシングされましたし、プレッシャーもありました。だから、頂上を目前にすると、つい、登頂してかつ生還する50%に頭がいっちゃうんです。猛吹雪の中で1時間悩みました。最後には「死」っていうのがどうしても怖 くなって「もういいや」って還ってきました。僕とペアを組んでた外国人の方はそこから100m弱登って、トップガンからゴーグルを飛ばされ、紫外線で目をやられて結局登頂できず、なんとか這って還ってきたんですが、僕より100mちょっとを登っただけで、手の指を凍傷で7本切断して足の指 も1本か2本切断したし、目もほとんど失明状態になっています。耳も切り落としました。僕は彼を見たときに、「ああ、俺は間違えてなかった」と思ったんですね。 僕は断念して還ってきたけど、耳もありますし、「俺の判断は間違えてなかった。 これは成功だったんだな」と正直思ったんです。ところが、日本に帰ったらまた「失敗、失敗、失敗」なんですね。
植村直己さんが亡くなったときに……。一度、直己さんの奥さんからマッキンレーで書かれておられた日記を見せてもらったことがあったんです。それを読んだときにびっくりしたのが、世界的な冒険家である直己さんが日記の中で「死ぬかもしれない」と何度も書いておられるんです。彼は、「冒険とは生きて返ってくること」と公言して、実際にいつも生還してきた。その彼が「死ぬかもしれない」といっぱい書いていました。日記の最後には「何が何でもマッキンリー登るぞ」で終わって、次の日に亡くなられたんです。 冒険の世界で「何が何でも」っていうのはありえません。「何が何でも」 は「いかなる状況でも決行する」ということですから、自然相手に何が何でもというのはできないんです。素人が書いたのであればまだわかるんですが、あれだけ世界的な冒険家である植村さんが、最後にそう書いて亡くなった。どうしてなのかな〜、と日記を読んだときにはわからなかったんです。  
ところが98年にエベレスト行って、山頂直下から引き返した時にわかった。僕の中では悪天候で登頂できないから引き返したのは失敗じゃないんですね。突っ込んで死んでしまったら失敗ですが、悪天候で引き返すのは正しい判断 だったんです。ところが日本ではそこをなかなか受け入れられなかった。そのときに、植村さんのことをふっと考えたら、あの方も亡くなる前に、エベレストに行って失敗してるんです。南極でも失敗したんです。大きな失敗をポン、ポン、と繰り返したら、あれだけ応援していた日本の社会は彼を最後にはほっぽり出 したんです。サポートしていたテレビ局ももういいです、と。応援するサポーターも減った。彼の周りの人はみんな去った、と言うんです。彼は南極大陸を横断 したいという念願を果たすために、日本をあきらめてアメリカに渡ってスポンサーを捜した。アメリカでアピールするためには、もう1回、冒険しなければいけない。マッキンリーはアメリカの山で、冬に単独では誰も登っていない、南極に行くためにはこれをやらなきゃいけない。そして、彼はマッキンリーに行ってしまった。 そこで彼の本来の冒険家としての「冒険とは生きて返ってくること」という哲学はおそらく崩れたんです。ある意味、玉砕に近いんですね。悲壮感が漂っています。で、彼は死んでしまった。彼の遭難の仕方について、日本の社会は忘 れてはいけないと思うんです。あれだけ持ち上げておいて2回失敗しただけでほっぽり投げて、植村さんが亡くなった後に、またいきなり持ち上げて日本の英雄だと。国民栄誉賞もらいましたね。僕は98年のエベレストのときに気づいたんです。直己さんが死んでしまったのはこういうことか、と。



恐れず怯まずやったおかげで今日の自分が

野口健: 僕よりもっと力のある若者はいっぱいいるんですが、彼らがなかなか出てこないのは、失敗したら叩かれるし潰されるのが怖いからなんです。山の世界は日本の社会の縮図だと思うんですが、OBたちが、失敗したらどうすんだって潰しちゃうんですね。  
その点、僕は小中高とエスカレーター式の学校でしたが、中学校で完全に落ちこぼれになって、高校に進学するときに僕だけ仮進級という形になったんです。 進学校でしたからみんな勉強して一流の大学に行くという雰囲気があって、どうしても乗れなくて反発して喧嘩もして、停学処分になりました。自宅謹慎 といわれて家に帰ったんですが、親父が「勉強できなくてイライラして他人を殴って停学処分になって、そんなお前が家にいても良いことない。ひとりになれ」って言ってくれて、その停学処分中ひとりで旅をしたんです。学校からしょっちゅう電話がかかってくるんですが、親父はそれをごまかしきって、1ヶ月旅をしているうちに「山」に出会って、そこから僕の気持ちはバッとそっちに向かったんです。停学が僕にとって良かったんです。一般的に停学というとマイナスでしかないんですが、 これがきっかけとなってそれからずっときたんですが、経験はやはり力。 7大陸やるんだということで、もちろん失敗も多かったですが、逆に失敗 すると何が足りないかということもよくわかるんです。自分に足りないところをトレーニングして補っていって最終的には成功できたんです。  
この間、学校で講演して中学3年生の男の子にエベレストに行くのも冒険だが、エベレストに行く前に多くの支援者を回ってお金を集めて、その環境づくりをするのも本当に難しいという話をしました。政治家の方も選挙に通らないと政治家になれませんが冒険家もスポンサーが付きませんと冒険ができませんから環境づくりというのが大変だ。 お金づくりから冒険は始まっているんだという話をしました。中学3年生ですから高校 受験も大学受験もあるでしょう。今そうやって勉強してるところから挑戦も冒険も始まっているという話をしましたら、生徒が手を挙げて「僕は冒険ができないんです」と言うんです。「なんで?」と聞きましたら、進路指導の先生がいて「君の学力では君の行きたい高校は落ちるからこの高校を受験しなさい」と言うらしいんですね。 これは、とても日本らしい考え方だなと思いました。僕はその子に「仮に浪人してでも行きたいというのならやってみれば良いと思う。自分のやりたい道を突き進むにはそれなりの責任もリスクもある。それを全部受け入れる覚悟があるなら、やってみれば」と言いました。先生の顔を見たらいやな顔をしてましたがね。 ある意味で失敗は若い人の特権だと思うんですが、今の学校教育には、子 どもたちに冒険させるような環境はないんだなと思いますね。  
なかなか冒険できない日本の社会で小泉総理が大胆に、初めて痛みを伴う改革を訴えましたよね。要は皆さんも負担してくださいよってことですが、通常は選挙では良い事しか言いませんよね?そういった意味ではあえて悪い事を言いながらも支持された初めての総理なのではないかなと思います。冒険できなかった社会に、初めてそういう事をバンと切り出したのが小泉総理なのかなと思います。
山崎拓: 「恐れず、怯(ひる)まず、とらわれず」っていう事でやってますからね。 そのキャッチフレーズがぴったりなところがあるんじゃないですか? 私はサ ラリーマンから選挙に出ました。サラリーマンは一生保証されていると思 われていた時代でしたから、安定した生活を投げ棄てて挑戦するのは、大変に勇気のいることでした。私も一度落ちたんですが生活を維持するのが大変でした。 だから、挑戦することをみんな恐れるんです。私も、まだ若かったので、 やめて定職に就こうと思った時期もあったんですけれども、恐れず怯まずやったおかげで今日の自分があるわけです。  
さっき登山の話で、やるかやらないかの限界状況の話がありましたが、兼ね合いが難しいですね。人生というのはその兼ね合いじゃないですかね。 もう一歩で成功か失敗かという見極めは経験が必要でしょう。たくさんの経 験を積み重ねていかないとその判断はできないんじゃないでしょうか。経験のない知識は、知識のない経験に劣るという言葉がありますが、経験が一番大事でしょうね。 いくつもチャレンジして経験を積み重ねて見つけた経験の法則で的確に判断 するということが大事で、政治家も長くやったヤツは辞めろという意見もあるが、一方でいろんな経験を身につけているから判断が正確だという意見もあります。  
その兼ね合いが大事で、老壮青のコンビネーションで社会がうまくいく。若い人の活力と、年をとった人の経験の知識、リーダーシップを発揮する壮年と、老壮青のバランスが大事だと思います。まだあなたは「青」に属しているけれど、老荘の長所ももっておられるので、環境問題を中心に社会をリードしていって欲 しいと思います。期待しています。
野口健: 青い世代の話を聞いていただいて、ありがとうございます。
山崎拓: いや、こちらこそ、ありがとうございました。

(2002年2月18日 山崎事務所にて)