(2002年2月20日 山崎事務所にて)


自分たちの街は 自分たちでつくり守る、 その意識がないと 日本は生き返らない

安藤忠雄: 昨年11月にフランスでポンピドーセンターに次ぐ第二現代美術館のコンペに通りましてね。シラク大統領のレセプションに招待されて、「これは日仏文化交流事業の非常に大きなプロジェクトなので、小泉総理大臣にきっちりと隅々まで説明してもらいたい。彼は今までの総理と違い、変わっていておもしろいから」と言われたんで、12月の初めに説明に行きました。
山崎拓: 小泉総理にお会いになられたわけですね?
安藤忠雄: はい。その時総理に、地方都市の実情にも目を向けてほしいというお話もしました。ちょうどその頃、僕は弁護士の中坊公平さんと香川県の豊島(てしま)、あの産業廃棄物の山になってしまった島に緑を増やそう、瀬戸内海を緑で覆いつくそうというんで、1口1000円の寄付金を募って百万本の木を植える運動を始めてました。昨年だけで約10万人の人が寄付してくれて、地域社会に少しでも木を植えようという子どもたちが育ってきたら、ひょっとしたら故郷に想いを持った子どもたちも出てくるだろうと思ったんです。本当に100万本も木を植えられるのかなと不安もあったんですが、淡路島や小豆島の小学校の先生や校長先生が手を挙げてくれて「われわれも何かやりたい」ということで、どんぐりを拾って発芽させ、大地に戻していく案も出てきた。どんぐりを拾うのは意外と簡単で5万個を拾うのに1週間もあれば充分なんです。淡路島は小学校60校の内の20校、小豆島は11校全部が参加してくれているので、100万本は決して難しい話ではありません。集めたお金でそれぞれの小学校に新入生が入学した時に、桜を10本ずつ植えていこうと考えました。桜は3年で咲くようになりますから、1年生が6年生になって卒業する頃には、あちらこちらに桜が咲く美しい島に戻していくという小さな運動をやってます。このことを総理にお話したら、「おお、それは感動した。俺も植えに行く」とおっしゃっておられました。もう忘れておられるかもしれませんが(笑)。また、昨年淡路島に「夢舞台」というのをつくり、そのあたり一帯で「花の博覧会」が開催されたのですが、これは当初の試算では450万人の来客で経済的にプラスマイナス・ゼロという計画でした。結果的には695万人の来場があり65億円の利益が残って、このお金は緑化やメンテナンスのための費用に使っています。それで、これを学びにして私たち大阪でも「大阪城・花の博覧会」をやったらどうかと……。今は、関西、特に大阪がまったくダメになってましてね、大阪も京都も神戸も自分たちで街づくりを立ち上げていったらよいのではないかという話を、大阪出身の塩川正十郎さん(財務大臣)を招いて、大阪の経済界の人たちに集まってもらって話してもらおうと思っているのですが、皆さん「大阪を活性化できるならおもしろいな」と……。大阪城はご存知ですよね?
山崎拓: ええ、ええ。
安藤忠雄: 大阪城、中ノ島、大川があって淀川があるんですが、ここで「花博」をしたら施設はいりません。大阪城に花を咲かせるだけですから。これなら予算が70億円位でいけますし、街の真ん中にありますから、恐らく淡路島の倍は人が来るだろうと。もし1200万人来たら、入場料3000円として360億円にりますから、施設費を大体70億円に抑えれば290億円位の利益が出ます。大阪府、大阪市はお金がないから無理じゃないかと思っていたら「PFIでやろう」との意見が出ました。PFIもいいんですが、同時に市民が参加するのはどうだろうかと。寄付ではなしに10億円出せば15億円位になって返ってくるわけです。やっぱり街づくりに自分たちが参加して自分たちで街をつくっていっているという誇りを持っていけば、ひょっとしたら街づくりというものの、ひとつの見本になるかなと考えてます。市民に聞いてみたら、1万円投資して1万5千円になるなら面白いとワクワクするわけですよ。1万円で夢が買えるならいいということです。街づくりの見本というか、地方都市の生き方の見本を、やっぱり大阪でつくりたいなという話をしてまして、この「花博」は5年後ぐらいにやりたいと思っている。大阪市長や大阪府知事は「民間人が言ってきたことはやりたくない」と言っていたんですが、最近では「入れてくれ」と言ってきている。「いらん」と言いますと、「いや、入れてくれ」と言うので、他の人たちから「それでは、自分が知事か市長になって博覧会をやったらどうか」と言われている次第です(笑)。
僕は博覧会がどうのという問題ではなく、市民が自分たちの街を自分たちで守るという意識になって自分たちの投資したものが大きくなっていくという夢を、自分たちで買えるようにならないと、今の疲弊した日本は生き返らないと思うんですね。大きな国の経済の問題はわれわれにはわからないのですが、地方都市それぞれがあり方を探り、自分たち個人個人が国のあり方を考えなければ国がやっていけないと思うんです。今、日本という国が非常に危ないと言われ、実際みんな本当に大変なんですが、みな政府がやってくれる、行政がやってくれると思っていますよね?このままの状態ですと、えらいことになっても、まだ誰かがやってくれると思うような状態になるのではないかと心配しています。
山崎拓: 個人個人が街のあり方、国のあり方を自分たちの問題として考えるということですね。それって実はなかなか難しいけれど、安藤さんのように先頭に立って旗振りされる方がいるから物事が進むんでしょうね。心強いです。



国力の原点は子ども。 その子どもたちが 鍛えられてない

山崎拓: 関西は失業率がものすごく高いですよね。
安藤忠雄: 高い。
山崎拓: 全国平均から見ると特別に高いんですよ。中小企業が多いせいじゃないかという人がいましたが、やっぱり、街全体でのビジョンを失って覇気がなくなっているんでしょうか?
安藤忠雄: 上空から大阪を見ますと、中小企業の街は全部歯抜けなんです。まず、土地をもっている人はパーキングにするんですね。一番大きな問題は中小企業の子どもたちで、親が荒れると自分たちも荒れるんですね。昔は金持ちだったけど親はもうひっくり返っているから自分もどうしようもないと。次の時代を担うべき子どもたちがひっくり返っていてはこの国は成り立たない。例えば渋谷でも新宿でもそうですけども、歩いてみるともう人間の顔をしていないのがいっぱい歩いているんですね。頭がこんなになったり、首輪がついていたり、もう……。一回歩いてみてくださいよ(笑)。
山崎拓: ほう……(笑)。
安藤忠雄: いやほんとに。僕は時々東京大学以外の大学にも講義に行くわけですが、夏になんか行きますとね、髪の毛の青いのやら赤いのやら、もうほとんどスカートはいているのかどうかわからないようなのがいっぱいいて、目の置き場に困るという状態です。この子たちが大きくなって、この国の明日はないなと思うわけです。僕は別に軍国主義ではないんですけども、例えばドイツのように1年徴兵に行くとかボランティアに行くとかして精神を鍛え直してから大学に行かさないと、今の状態でダラダラしたまま大学に通った子どもたちが卒業しても日本のためにはならんと思いますがね。今の子どもたちには知識や能力はあっても、生きる力がない。僕はたまたま昨年の11月に司馬遼太郎さんの記念館を大阪につくったんで、司馬さんが亡くなる前からよくお話していましたが、いつも嘆いておられましたね。国力をその国の人間の力としますと、国力の原点は子どもなんですが、その子どもが鍛えられていない。体だけ大きくなって頭でっかちで社会に出てきても、この国がまたやり直せるとは思えない。教育的な改革が必要だと言われているが、人間的な改革が足りないと僕は思ってる。教育レベルがそんなに低いとは思わないんですけど、子どもの時にやっておかなくてはならんことをやってないから本当に生きる力がついていない。遊んだり、喧嘩したり、魚を捕りに行ったり、子どもの時にしかできなことをやっていない子どもたちが大人になっても責任感のある大人にはなれないと思うんです。そこが一番欠落しているんですね。小学生は2年生とか3年生から塾に行くんです。それなのに、もっと教育をと言っている文部省はちょっとおかしいんじゃないかと。
山崎拓: 経験なき知識は、知識なき経験に劣るってことですね。経験が非常に大事だと。ある哲学者に聞いたことがあるんですが、人は人類が辿った経験をすべて経験する必要があると。昔、人間は海に浮いていたアメーバみたいなものだった。それが魚となり陸上に住み着いて猿になって人間になった。人はそれを全部、体験上繰り返しているというのです。精子と卵子が結びついて胎水の中に浮かんでいる。これが海の中のアメーバ。それからだんだん体内で魚のようになって破水して出てきて陸上に上がって、それから猿のようになって人間になっていく。あっという間に人類の長い長い歴史を一遍通っているというわけです。ですから、キャンプをして火を起こすとか、そういう経験をしないと一人前の人間にはなれない。新しい知識が生まれない。安藤さんはものすごい、地についた経験をしておられるからこそ、すごい発想が生まれるのではないかと思います。教室の中で覚えたのでなく、経験を通じて体得された建築学なのですごいのではないかなと。



日本人のいいところも 言ってやらないと。 いいところはいっぱいある

安藤忠雄: 昨日テレビで子どもたちに投資の勉強をさせているという番組を見ました。小学校か中学校で。
山崎拓: お金をコンピューターやインターネットを使って投資するのですか? そりゃいかんな(笑)。
安藤忠雄: そう、そんなことをやっていていいのかなと思いましてね。アメリカでは盛んなんですが、日本でやるのとは違って、自分たちの地に着いた経済学の上での投資だと思うんです。日本では地に着いたところがいつもない。アメリカがやっているからと言ってコンピューター上でそれをまねしたところで地に着いたものにはならん。今、私が考えている大阪の街の開発に1万円でも投資するというなら、自分たちの街がみるみる良くなっていく手ごたえがあって、街づくりに心が参加していく、地に足の着いたものになると思うんですよ。今の日本人は心に元気がない。世界中から独創性がないだの、個性がないだの叩かれているが、確かにそういう面もありますが、意外と良い面もいっぱいあるんですよね。僕はあの阪神淡路大震災の時、震災復興委員会実行委員長として、いろいろ間近に感じてきたのですが、あの時の復旧・復興のスピードを見たら、んなに忍耐力や協調心をもった民族は世界にはないと。一部に個性的で創造性をもった者がいれば、全体に民度の高い日本人は充分世界で戦えると思うんですが、個性がないだの政治が悪いだの言われたとたんに下を向いているでしょ?そんなものではないと思うんですが、それを言い返す人がいない。マスコミも否定的なばかりでシュンとしている。政治家がそうでもないんだ、いい所もいっぱいあるんだ、と言ってやらないと今はもう日本中皆下向いてばかりいる。それともうひとつ、「文化人」と呼ばれる人たちに、実世界に対する問題意識が薄い。「文化人」は身を持って社会に対して提言することがなくて、ただ単に評論するだけになっている。僕は建築の設計をしているから、そこから環境について自分ができることは何なのかということで提案し、自ら参加している。自分の得意分野・専門分野でやるから、こいつの言っていることはおもしろい、乗ってやろうと思う人が出てくるんだと思います。
山崎拓: 日本の経済がまいっていることの原因・対策についても100の評論がありますが、どれひとつあたらないですね(笑)。評論というのは意見もすぐ変えられますし、同じ評論家が1年前とまったく逆のことを言ったりもしてますがね。やっぱり実行することが一番大事じゃないですかね。評論家じゃなくて実行家がもっと多くなるといいですね。
安藤忠雄: そうですね、今の日本は評論家ばっかりで動いていくから、われわれ一般市民はいっぱい評論がある中でどれを信じればいいのかわからなくなる。
山崎拓: 官邸の中にも評論家がいっぱい入り込んでいるけども、大丈夫かな?と私も思っているわけですよ(笑)。
安藤忠雄: 昨日、友人の東大の経済学者に会ったら、経済学者の自分が言うのもなんだけど評論家ばかりいて困ると言ってました(笑)。やっぱり身を持って頑張るというところがないと、しょせん評論家にすぎない。われわれ国民は右往左往しています。
山崎拓: 実業じゃなくて虚業なんですね。やっぱり実業家が活動しないと国の活力、発展の原動力が生まれてこない。たとえばさっきの子どもにマネーゲームを教えている話、あれは実業じゃないですよ。
安藤忠雄: そのことの大変さをあんまり誰も言わないからどんどん進んでいくわけですね。アメリカも実は、虚構の社会ができあがって地盤がはっきりしていないんだと思うんです。
山崎拓: この前のエンロンの問題なんかもそうですね。僕はエンロンというのは実体があるものだと思っていましたよ。日本にもかなり進出してきましたよね。九州なんかにも発電所をつくるみたいなこと言ってね、実体があるのかと思ったら相当な虚構でしたね。潰れてみると、あっという間に消えてなくなりましたからね。
安藤忠雄: あっという間になくなった時に、巨大な本社ビルができてるんですからね。アメリカ型の経済主導型社会ではなくて、日本型の社会のあり方というものを考えていかないと、日本人の資質と合わないと思うんです。
山崎拓: マネーゲームがはびこって、本来日本が得意とする生産基盤が海外に行ってしまう。これは非常に危険なことだと思いますね。環境やITといったものはサービスを生産するからいいのですが、お金を動かすだけで儲かるっていうのはどうかと思いますね。日本はアメリカのまねをするところがありますから、アメリカが一時的に非常に成功を収めたからといって、日本も生産基盤を外に出してマネーゲームばかりやるようになったとすると、日本の将来は危ないという気がしますね。
安藤忠雄: ものすごく危ない。それもすごく近い時期にじゃないですか?
山崎拓: 近いかもしれません。
   


政治家が思い切って 「一人一人がしっかりしない とダメだ」と言うべき

安藤忠雄: 産業基盤がどんどん中国に移っていった結果、日本がデフレになったと言われますよね。僕はそうではなくて、世界中の国が中国で生産している事と、日本だけがデフレであるということを考えると、日本だけ経済的な基盤が薄かったんじゃないかと。アメリカはどんどん外へ出て行きますが別にデフレになっていませんよね。日本だけが給料が高いということもあります。日本の労働者が本気で日本の国益を考えて頑張るならば、たとえば皆が我慢して「よし、給料が半分になってでももう一回風を起こすぞ!」と気合を入れれば、労働力の質も高いし、中国よりも生産性が高くなると思うんですけどもね。今の「どうにかなる」というのでは給料の高い人が全部仕事を失う。誰かがやってくれるではなくて、自分がやるという心にするには、政治家が思い切って「もうこの国はダメなんだ。お前たちひとりひとりがしっかりしないとダメだ」と言うべきじゃないかと思うんですがね。中小企業は「仕事がない、仕事がない」と言う。中小企業まで中国へ行ってますよね。周りでは会社がどんどんどんどん潰れていくし、建設業なども仕事がなくなっている状態を考えると、本当の失業率は報道されているような数字ではすまないと思うんですね。そういうこともはっきり言った上で、自分たちの国をどうするかということを国民としっかりと対話していただいた方がいいんじゃないかと。国民は政府がそのうち何かをやってくれるぐらいにしか考えてなかったが、実際にはもう難しい状態ですよね。
山崎拓: 昨日、ブッシュ大統領が国会で演説しましたよね。その中で、福沢諭吉がコンペティションという言葉をどう訳すか研究して「競争」と訳した。競争の原理というものを福沢諭吉が明治維新の時に日本に取り入れたのだ、と。今は新しい維新だ、平成維新だ。この原理原則を忘れるな、競争の精神を取り戻せと。なかなかいいことを言いましたよ。競争に負けるから外に行くわけですからね。給料を半分にしろというお話がありましたが、競争力を回復しようということですね。
安藤忠雄: もうちょっと日本人が心を引き締め直せばやり直せるんですが、皆がなんとかなると思っている内はなんともならん。本当に泥沼へはまってしまいそうです。現実に各都市には浮浪者がいっぱいで、大阪が1万何千人いると言われていて一番多いんですね。街中いっぱいでますます増えてくる状態です。この国を立て直していくにはどうしたらいいか、わかりやすい言葉で議論しないといけないと思うんですが、新聞でも政治家でも理解しにくい言葉でしゃべるから全然わからないわけですよ。何かわかったようなわからないようなうちに議論が終わってしまう。地方都市には地方都市の生き方があって、たとえば小さな農業なんかでも生きていく方法は結構あると思うんですよ。努力すれば。だけど、努力しなくてもみんな年金貰えるとか言って、そっちの方をあてにしてるから、なかなか労働のほうにいかないんですね。それでいて雇用がない雇用がないと言っているようでは、その国の行く末はないと思います。僕は設計の仕事で海外各地に行きますが、アメリカやフランスに行っても、アジアに行っても「日本大丈夫か?」って聞かれるんです。「ほっといてくれ!」みたいな感じなんですがね。この間もシンガポール、マレーシア、韓国でも民間経済人に同じ事を言われた。ダメなイメージが浸透していくとますます不安が広がり信用力がなくなってくるんじゃないかなと心配ですね。まだ日本は経済力はあると思うんですが、信用力が確実にどんどんなくなっていっている。1970年代にアメリカやヨーロッパへ行って講演会をしたら、日本は企業も家族関係も教育も何もかも素晴らしいと言われたもんですが、1990年代は日本の教育も企業も家族のあり方も何もかも一体どうなっているんだと言われるようになって、われわれ日本人は外国に行って肩身の狭い思いをしてきました。やっぱり方針のない国家というのはまずいんじゃないかなと思うんですね。
山崎拓: まだ日本には経済大国のイメージが残っていて諸外国が相当敬意を払っておるんですね。ライジング・サンがサンセットに向かっているということについて、そんなことないだろうと、皆信じない。かつての奇跡、経済発展の奇跡がまた蘇るであろうという期待感がまだあるんですけども、実際はどんどん悪くなっていく。これは政治家として責任重大です。小泉さんがあれだけ支持された理由は、構造改革という目標を掲げたことにあると思いますね。
安藤忠雄: ええ、僕もそう思います。
山崎拓: 景気回復という目標はですね、目先ではいいが、深く国民の心を掴んで離さないというものではない。小泉総理は、構造改革で日本を再びつくり変える国も変える、社会も変える、自民党も変えるというキャッチフレーズで国民の支持を得た。これだけは成功させないといけないと思ってるんです。
安藤忠雄: 官僚と政治家が上手くやってもらわないといけないと思うんですが、われわれの知っている官僚の多くは、一流大学を出てキャリアになったエリートの人たちで、人の意見を聞かない。僕は田中真紀子さんに頼まれた私設諮問員のひとりだったんですが、「人の意見を聞かないエリート官僚と人の意見を聞く必要がなかった人とが一緒にやるのは難しいのではないですか」と言うと「言いたいこと言うわね」と言っておられましたけども(笑)。ずっと長い間地方から陳情に来てもらって、自分たちは殿様のようにしてやってきた官僚の人たちと、大体1、2年で代わってしまう大臣や充分な専門知識も持たない政治家が一体になってやっていくというのは難しいですよね。われわれも一緒に仕事をする中で、官僚システムを見ると相当老朽化しているし、政治の体制もそうですし、日本の国を運転していただく2つのトップが上手くいかないようではわれわれ国民はもうどうしようもない。
 


建設でなく運営・サービス への補助金をつけて、 街に雇用と元気を


山崎拓: 私も建設大臣をやったことがあるのですが、その時に拠点都市構想というのが生まれましてね。法律もつくったんですよ。地方都市の典型的な代表例をつくろうというもので、東京・名古屋・大阪の三極集中を排除して、人口を吸収する魅力を持った拠点都市を地方に作り、そこに資源を集中しようと。ところが、「俺の所に拠点都市をよこせ」と全国47都道府県すべてが手を挙げたんです。集中的に予算をつぎ込まなければうまくいかないんだから、そんな全部につくるなんてダメだと私が言ったんですよ。1ヶ所か2ヶ所、どうしても広げたいというなら全国9ブロックありますから9ブロックに1ヶ所・1地方拠点都市だと。そうしたらものすごく役人が抵抗してね、47都道府県全部つくると言ってましたが、結局今もって1ヶ所もできてない。10年も経つんですが、法律も通っているのに何もやらずに雲散霧消しちゃったんです。ようするに同じものを均等につくろうとするんですね。だから日本中どこへ行っても同じ様に見えませんか?安藤さんは全部変えたいと思われるでしょうけど。それこそ羊羹を切ったみたいになっておるんですよ。これが日本の行政の頭のいい役人が考えだした、すべて瓜二つの物を日本中に造るという理想をバラ撒こうとする悪い傾向ですね。やっぱり個性的なものが必要だと思います。どこへ行っても同じじゃないかというのでは、魅力がないし、そこに住みたくなるという事もない、旅行もしたくないと思うんですよ。公共事業のあり方については、どう思いますか?
安藤忠雄: 公共事業というのは補助金で成り立っているから、専門家の目からみると、こんな大きさはいらないと思うものがいっぱいあるんですが、もう予算がついているからやってくれと、こうなるわけですよね。いわゆる軌道修正ができないシステムになっていて、もったいないことがいっぱい起こる。現在、箱物はいらない、と全国で言われているけども、箱物をつくる時に誰がどうやって運営していくかといったことはほとんど考えられていなくて、まずは補助金を貰いに行って箱をつくるだけです。公共事業は今まであった建物を再利用するだけでも充分いけます。上野にある国会図書館を国立国際子ども図書館にするというので、僕が設計を担当して今年5月5日にオープンするんですが、それなんかは明治時代の建築の再利用なんです。昭和の初めに改築して、今回2回目の改築で、また100年もたせて次の世代に渡そうと。そういう風に建物を残すことによって、古いものに対する愛情、そしてそれを見て老人に対する愛情といったものを感じるようになると思うんですよ。日本人は全部スクラップ・アンド・ビルドでどんどん壊してどんどん造ってしまう。
山崎拓: たくさんの市町村があって、それぞれがみんな同じような公民館や市民センターをつくるもんだから、どこもガラ空きなんですよ。
安藤忠雄: 関西でも大阪、京都、奈良、神戸はどこでも車で3〜40分なんですよね。そこには同じような美術館があって、同じように公民館があって、同じように公会堂がある。同じようなモノをあちこちにつくらず、地域がまとまって美術館なり音楽ホールなりをひとつつくって、使う人が出向いていけば良いんです。そうすればとても良いものができるなあと思うんですけどもね。そしてまとめて運営していけば結構いい運営ができるんじゃないかと思うんです。均等にバラ撒いてつくって大丈夫かな?という感じですね。
山崎拓: 空港なんかが典型的な例ですよ。各県に飛行場をつくろうとするでしょう?知事のメンツ問題なんですよ。
安藤忠雄: 今、関西国際空港の国際線がとても少なくなっているのに、その上、神戸空港をつくるかも知れないでしょ?そのふたつは直線にしたら車で15分位の距離にある。伊丹空港もまだ使っているでしょ?本当にいるのかなあ?と、市民が皆そう言っているんですよね。補助金システムであれば、建設ではなくて運営していくことへの補助金のほうが大事なんではないかと思うんです。そこへ行ってサービスする人、運営する人というので相当の雇用があると思うんです。今、全国の地方都市で一番の問題は雇用ですが、そんなに高額の賃金を欲しがっているわけではない。雇用と言えばお金、となりがちですがそうではなくて、雇用とは生きがいだと思うんです。地方都市では使ってない公民館や美術館とかが結構あって、だんだん朽ちてきてますが、少し改修の補助金を付けてやると生き返りますし、運営の補助金を付けてやると街は元気になると思うんですよね。今のままでいくと、全国に使わなくなったバラックが残っていくような気がしますからね。もったいないですよ。
山崎拓: 最初に一本法律を変えないといけないかな。目的外使用がある程度柔軟にできるように。
安藤忠雄: 目的外使用をしないと今までのものは全部死んでしまう。そして全部産業廃棄物になる。長野県の田中康夫知事に言わせると東京―長野間にオリンピックで高速道路ができたので、東京に捨てられない産業廃棄物が長野に来るらしいですよ(笑)。瀬戸内海には船で来ますので産業廃棄物が島々に増えるんです。捨てやすいんですね。瀬戸内海には500以上の島があって建設で石や砂や土を採ったりしたもんですからゴソッとへこんでいて、そこに産廃を埋めて上から土を被せるんです。結局それがPCBやダイオオキシンを出して瀬戸内海に流れ込んでいきますから日本の海や国土は大変です。これもやはり、今ある法律を目的外使用を認めるように変えて、今まであった建築を産業廃棄物にせず再利用したら、かなり有効活用できると思います。何よりもそれによって市民が元気になる。



自分に何がやれるかと考えてあきらめずにやればなんとかなる

山崎拓: 波乱万丈の人生の中から成功されてきたと思いますが、人生の方針というか座右の銘があれば教えていただきたいんですが。
安藤忠雄: 僕は諦めずにやれば誰でもなんとかなると思ってます。前を見てまっすぐ歩くこと、そして自分に何がやれるかということを考えて自分を信じてやってきたんです。残念なことにそれが今の学生には通じないんですね。成績のことばっかり考えてますからね。
山崎拓: 国のため、社会のためってことは考えないんでしょうかね?
安藤忠雄: 僕はやっぱり、自分も大事だが、国のため社会のために何ができるかということを皆が考えたら、うんと良くなると思いますよ。いくら世界から叩かれても、自分たちは優秀だということをもう一度見直して欲しいですね。自分たちの話なんですから、自分が国のために何ができるかということを考えてもらいたい。僕はこのような活動をしているが、別に建物を建てるのではない話も多くて、「自分の仕事にもならんのにようやるな」ってよく言われますが、まず、自分が社会に対して何ができるのかを考え、そして実践する。それが波及して周囲の人たちも元気になり、少しでも社会が良くなっていけば、と思ってます。
山崎拓: だけど、大変なことですよね。自分の利益や自社の利益と関係なしにオーガナイズされるからこそ、人が集まるんですね。営利目的でやると集まらないですよね。
安藤忠雄: 集まらないですね。政治家の偉い人たちも時々は地方都市に来ていただきたいです。自民党が集めと自民党の人ばかりが集まってきますので、もっと色々な人に集まっていただく会が欲しいですよね。関西の経済界の方々も政治家の先生に会うと遠慮がありますし、本音を言わないですよね。あれでわざわざ東京に行ってどないすんねん、もう行くなと言うんですけれどもね(笑)。
山崎拓: ええ、お偉方の会になっちゃてね。経済の話が中心で、経営者の目線、大組織のリーダーの目線。それも大事だしいい意見もおっしゃるんだけど、やっぱり国民の目線というか大衆の目線がないですよね。よく言えば紳士で他人の悪口は絶対言わない。そして批判もしない。批判される事も嫌がるが、批判することも遠慮するんですよね。それを紳士道だと思っているから。結局中身のない議論になる。
安藤忠雄: いざ会議になると外国人はつっこんできますけど、ああいうのにやっぱり日本人は弱いですね。日本人は自分がどう考えているのかしっかり言わないから。
山崎拓: 議論に弱いですよね。「前向きに検討する」とか言って全部逃げてますからね。



経済が悪い時こそ 心に火をつけて

安藤忠雄: ひとつだけお聞きしたいんですけど、日本の国は大丈夫ですか?
山崎拓: 大丈夫だと思います。蓄えも底力もあると思いますから、それを安藤さんが言われるように上手くオーガナイズして前に進めていくということでしょうね。
安藤忠雄: もっと国民の心に火をつけてやらないといけない。1960年代、70年代は心がワクワクしてた。ワクワクしたら消費もしますが、シュンとしたら消費もしないですから、もっとワクワクするように仕向けないといかん。僕は大阪出身ですから「元気を出そう」の会を大阪で立ち上げましたが、あちこちの地方からそういう人たちが出てくるといいなぁと思います。みんな久しぶりにワクワクして面白いって言うんです。だから、他人を頼って面白いな、じゃなくて自分たちで面白くしてくれ、と経済界の人たちに話をすると「今は経済が悪いからな」と言う。経済が悪い時こそ、心に火をつけて元気になって欲しいと思うんですけどね。
山崎拓: ちょっと誤解を受けるかもしれませんが、僕らは国家の経営をやっている。国家という言葉自体が非常に嫌がられるんですが、国家というものはなくならんと思うんですよ。少なくとも21世紀の間になくなるとはとても思えない。結局、国家という単位で世界は動いているわけです。その国づくりに国民の皆さんに参加していただこうと、そうすれば国民にも目標ができるわけですね。だからまず国家のビジョンを示すことが大事なんですね。構造改革は手段ですから、その結果、どういう国になるんだということを言わなければならない。
安藤忠雄: 日本を構造改革するのはいいんですが、その前に日本はこういう国にしたいんだということを世界中に強くアピールしてもらいたい。どういう国になるのかをアジアの人たちも世界中の人たちも聞きたがっているんですね。
山崎拓: 私が憲法改正を言っているのは、国家をもう一度みんなで見直してもらおう、意識してもらおうということです。日本の国の最高法規なんですから。それをアメリカの占領憲法という説があるぐらいなのに、半世紀以上も改正していないのは日本だけですからね。時代はもう変わっている。たとえば現行憲法には環境なんて言葉は一言も出てこない。これだけ大きな問題なのに憲法の中に環境を守ろうという言葉がひとつもないんですよ。環境、自然との共生は今の価値観の中で一番重要なものです。それを考えるとおかしいでしょ?
安藤忠雄: 僕もそう思いますね。いや、本当にそう思いますね。
山崎拓: だから、それ一点をもってしても憲法を変えるべきだと私は思うんですよ。
安藤忠雄: ものすごいスピードで変わっていかないといけませんね。やっぱり早いところ頑張っていただかないと(笑)。
山崎拓: はい、頑張ります。本日はお忙しい中どうもありがとうございました。

(2002年2月20日 山崎事務所にて)