第21章 住宅政策の推進


多彩な生活を楽しめる居住空間
 日本の住宅の状況は、質の面でまだまだ充分とは言えない。国際的な比較をしてみても、一人当たりの住宅床面積は約三一平方メートル(一九九三年)で、米国の約半分、英、独、仏よりも狭い。既婚女性の四分の一が、子どもを産まない理由に「住宅の狭さ」を挙げており、在宅介護に必要な設備を置くスペースを確保することも難しい。
 また、日本の住宅の平均寿命は約二六年と、米国の約四四年、英国の約七五年などに比べて極端に短い。さらに、周辺の居住環境、景観などみすぼらしいストックが多過ぎる。
 国民一人ひとりが生活の豊かさを真に実感できるためには、新しい世紀にふさわしい活力と、ゆとり・潤いのある居住空間を実現することが必要である。
 二一世紀を通じて、良質なストックとして活用できるような、本格的な住宅の建設を促進する必要がある。本格的な住宅は、環境配慮、防災対策はもちろん、多彩な生活を楽しむ国民のニーズに対応するものでなければならない。
 魅力ある居住環境のなかに、ゆとりあるスペースを持ち、環境に優しい省エネルギー住宅、耐震性・耐火性など高い耐久性を備えた住宅、高度な情報通信の機能を備えた住宅、バリアフリー住宅などの実現が求められる。しかも、そうした住宅は長期間の使用に耐え得る設計、設備にすべきだ。加えて、歴史、伝統、文化など地域の特性を活かした産材を活用した木造住宅が中心となれば素晴らしいことだ。
 さらに、ゆとりある居住空間の確保のために、通勤に便利な都心住宅と、居住環境に優れた田園住宅など、複数の住まいを持つマルチ・ハビテーション(複数の住宅を利用する住まい方)を増加させることで、一人当たりの居住面積の倍増を目指したい。
 都市部には、住宅地と混在する農地や工場跡地、地上げ途上の虫食い状の低・未利用地が点在している。これらの土地に、それぞれ共同・戸建て住宅を建設した場合、たとえば東京二三区内で約一四一万人分の住宅供給が可能だとする試算もある。都市基盤整備公団などを活用し、定期借地権を使うなどして、良質な都市型住宅を大量に供給すべきである。
 なお、都市型住宅としては、マンションという居住形態が有効な手段だが、分譲マンションの適正な維持管理、老朽化に際しての円滑な建て替えが大きな課題であり、安心してマンションに住み続けられるよう、制度の整備を早急に進めなければならない。
 さらに、そうした住宅は、国民がそれぞれの資力に応じた負担で確保できるようなものでなければならない。
 日本の住宅は、海外に比べてコストが高いという指摘もある。建築基準法の性能規定などの規制緩和措置や、住宅性能表示制度を住宅関連産業も積極的に活用し、市場を通じた適正競争によって高コストの是正に努めるべきである。
 また、住宅ローンを抱えている世帯では、月額返済額が月収の一四%に達している。長期にわたって払い続けるものとしては、不安を感じる大きな負担である。将来にわたるローン負担を軽減する仕組みをつくり、安心して住まいを持ち、生活を楽しめるような取り組みが求められている。合わせて、住宅取得に対する課税を大幅に軽減し、良質な住宅の取得を支援する税制とするべきだ。

ライフサイクルへの対応
 長い人生のなかでは、家族の住まい方もいろいろ変わってくる。環境のいい広い住宅で子育てをしたいと思っても、適当なストックが見つからないと不満を感じる人や、住宅の制約から理想の子どもの数を現実には持てないという家庭が多いのではないか。
 また、これからの高齢社会では、広いだけでバリアフリー化されておらず管理が大変な住宅に、ひとりで暮らす老人が増えることが懸念される。ライフスタイルに応じて、必要な時期に、必要な規模・機能を備えた住宅が確保できるようにする必要がある。
 そのためには、これまでのように、新築持ち家を中心に考える居住システムでは問題がある。そもそも、新規住宅を大量に建設し破棄するというこれまでのシステムは、二一世紀の環境や資源が制約される社会では許されないだろう。
 今後は、既存住宅が円滑に転売・賃貸されるストック重視型の居住システムへ転換しなければならない。
 現状では、中古住宅の流通量は、米国の三〇〇万〜四〇〇万戸に比べ、日本では一五万戸前後にとどまっている。また、既存住宅の適正評価と性能保証が確立していないため、売り手、買い手、貸し手、借り手が互いに二の足を踏む傾向にもある。さらに、日本の中古住宅の評価は十数年を超えると土地以外は価値がゼロとされ、リフォームしようというインセンティブも働かない。
 したがって、既存住宅の評価・保障・流通システムの確立を急ぐべきだ。また、既存住宅が適正に流通するようになれば、住宅のリフォームも、これまで以上に促進されるであろう。
 社会経済構造の変化にともない、持ち家か借家かということにこだわらない人が増加しており、良質・低廉な賃貸住宅の供給を求める声は強い。賃貸住宅は住宅ストックおよび建設のそれぞれ四割を占めているものの、狭小な物件が多く、ファミリー向けの良質な借家が少ない。
 これは、借地借家法をめぐる諸制度、慣行があって、収益の見通しを立てて経営を行なうのが難しいということが大きく影響している。現在、議員立法により国会に提出されている定期借家権制度を早期に創設し普及させるとともに、土地所有者に対して借家供給に対するインセンティブを充実することが必要だ。

高齢者・子育て支援
 高齢者や障害者が、健康の許す限り住み慣れた自分の家や地域で安心して暮らしたいと思うのは自然の感情であり、これからの高齢化社会を考えると、それが実現するよう、社会全体で取り組んでいかなければならない。
 二〇〇〇年四月からの介護保険の導入にともない、民間事業者によって、さまざまな介護サービスが始まるだろうが、住宅には在宅介護の場としての機能が、今以上に求められることになる。
 すでに取り組みが始まっているコレクティブ・ハウジング(複数の世帯の独立した住まいのほかに、食事や保育などのスペースを共有して暮らしの一部を共同化する)の例のように、在宅介護が容易になるように配慮され、安全とプライベートな生活が保障されたなかで、高齢者が共同して住めるような住宅の供給がもっと必要になる。
 そうした住宅では、バリアフリーや緊急通報システムが整備されていることはもちろん、医療・福祉サービスを受けやすいように、住宅の一角に福祉施設や医療施設を合築・併設するとともに、ライフ・サポート・アドバイザーの配置など、生活支援サービスとの連携を強化していくべきである。
 特に、借家に居住する高齢者世帯の増加が予想され、バリアフリー化されたケア付きの住宅の整備を、公的なセクターが自ら先導的に取り組むとともに、民間賃貸住宅を誘導することを強力に進めたい。
 このように、高齢者が安心できる居住の確保と、それにふさわしい住宅の供給を促進し、住宅を含む社会福祉の総合化を図る制度の導入を積極的に検討すべきだ。
 少子・高齢化社会では、子育てを個人の問題と考えるだけではなく、社会全体で支援する環境をつくることが大事である。そのためにも、託児所などの子育て施設を合築・併設した住宅を供給していくなど、子育て世代の住宅確保を容易にする政策を進めていきたい。