第18章 新しい環境の創造


循環し共生する環境を創造する
 現代の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済社会システムが、地球規模の環境に大きな影響を与えてきている。
 人類は長い歴史のなかで、自然界から得た物質を使ってさまざまな活動を行ない、それを消費した結果生じる廃棄物を自然界に戻すというシステムをきちんと守ってきた。
 この循環が、今、危機にさらされている。
 石油や石炭などの化石燃料を燃やすことによって発生する二酸化炭素は、深刻な地球温暖化現象をもたらす。このままでは、二一〇〇年には地球の温度は約二度上昇し、海面は約五〇センチメートル上昇すると言われている。一〇〇年待つまでもなく、もっと早い段階で、森林資源や生物種が減少して地球の生態系に悪影響が生じ、私たちの子孫の生存の可能性に影響をおよぼす恐れもある。
 安全で安心できる国民生活の実現のためにも、経済社会システムを改める必要があると感じる人々が多くなっているのではないか。
 二〇世紀の経済社会システムは、モノを生産し、流通させ、消費するというプロセスに重点が置かれてきた。しかし、これからは、消費したあとの廃棄物などの収集、処理、再資源化というプロセスにもっと力を入れていかなければいけない。また、人間の活動は自然からの恵みを受けた上ではじめて成り立つものであり、その活動を自然と調和させて、共生を図らなければならない。
 そして、これらの対応を全体としてつなげていく循環型のシステムを持つ「新しい環境」を創造することが大事だ。
 その具体例として、循環型の経済社会を目指して地方公共団体の一部で取り組まれている「ゼロ・エミッション構想」に注目したい。一企業や一産業から発生する廃棄物を、他の企業や産業と連携を図ることによって適切にリサイクルするとともに、廃棄物の再資源化につなげようとするものだ。さらに、発電、余熱利用などを軸として生活施設も連結する都市システムに発展していくことが期待される。
 そのなかで、廃棄物を処理する施設は、生産やエネルギー循環のための主要な施設でもあり、都市をつくる上できちんとした位置付けを持たせ、重点的に整備を進める必要がある。

環境配慮の重視
 大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会システムから、循環型システムに移行させることで、持続可能な経済発展が保証されるようになる。そのためには、経済社会システムに参画している企業、消費者、政府が、どこまで環境配慮を優先させられるかが大きな課題である。
 第一に考えるべきことは、事業者が、事業活動を行なうに際して環境の使用という社会コストを内部化するようにすることだ。
 生産や消費にともなって発生する廃棄物は、企業の内部で適切に処理、あるいは再利用する。それに要する技術開発や処理費用などは、企業自身が負担することが社会の常識にならなければならない。事業者に対する廃棄物の製造者責任、排出者責任を明確化すべきだ。
 第二に、環境に配慮する企業が市場競争で優位に立つ仕組みをつくることだ。
 最近ISO14001の認証取得を積極的に行なう企業が増加してきている。これは、これからの企業は環境保全への取り組みについて社会の信頼を得ることが、その存続の条件になるという認識が社会に定着しつつあることを示すものではないか。
 こうした傾向を進めるために、市場システムのなかに環境に配慮することを誘導していくインセンティブを埋め込むことが必要である。その手段として税制のあり方が議論されるべきだろう。
 たとえば、大気、水、土壌などの汚染、有害な廃棄物、騒音を引き起こすような悪い行為に対しては積極的に課税し、良い行為には税金を軽減するという考え方もある。
 第三に、消費者は、これからは価格が多少高くても環境に配慮した製品やサービスを優先して購入するようになるのではないか。
 たとえば、ドイツなどでは通常の電気代よりも高い料金を払い、それを太陽光発電や風力発電などのクリーン・エネルギーの開発に強制的に振り向ける制度があり、参加する消費者が増えている。こうした消費者(グリーン・コンシューマー)が大勢を占めるようになれば、企業行動と企業の環境配慮が矛盾しなくなる。

エコ・フロンティア
 環境に関する領域は、二一世紀の経済成長を支える有望なフロンティア(エコ・フロンティア)である。国は、それを拓く戦略づくりを進めるべきだ。
 そのなかで、環境産業は大きな役割を担うことが期待される。
 環境産業は、廃棄物処理の規制強化やリサイクルの推進により、雇用規模・市場規模が増大しつつある。現状では、約六四万人、約一五兆円だが、二〇一〇年には、約一四〇万人、約三七兆円に達すると予測されている。
 また、他産業からの新規参入も活発になってきており、上場企業の約三〇%が、すでに何らかの形で事業化している。今後も、エコ・フロンティアでは、大規模な投資が行なわれ、技術革新が生み出され、新産業の創出が盛んになって雇用の増大がもたらされることだろう。
 環境についての技術の振興は、「科学技術創造立国」の重点分野である。二〇世紀の技術は、生産効率の向上や大規模な自然の改造を可能にしたが、同時に環境問題の深刻化をもたらした。二一世紀には、低公害車の製造、廃棄物の減量・リサイクル、水質浄化、緑化など、環境に配慮するための新しい技術基盤の創出が求められている。必要な技術開発の目標を明確に打ち出し、官民が協力して環境技術の発展を誘導していくべきである。また、それを誘導する基盤づくりに公共投資を重点的に活用する。
 環境を人間の活動の制約条件と考えるのではなく、エコ・フロンティアを拓き、新しい環境を創造することが経済成長の原動力になると考えたい。

環境技術を通じた国際貢献
 地球温暖化など、現在の環境問題の原因と影響は地球規模にわたる。環境と経済成長が両立するシステムへの改革は、日本だけのものではなく、地球上のすべての国家が、共通した認識の下で協力して取り組むことが必要である。
 日本は、過去に官民一体となって、環境問題に関するさまざまな難問に取り組んできた実績がある。また、世界に誇るべき環境技術も持っている。そうした経験や技術を結集し、率先して地球環境を守るための国際貢献を果たしたい。
 そのために、環境に関する情報、知識や経験を持った研究機関、国際協力事業団などによる国内のネットワークをつくりたい。そして、そこには、優秀な官僚や民間の技術者を中心に、広く国民に参加・協力を求めていく。こうして、国際貢献のための基盤を整備した上で、この国内ネットワークと国際貢献プロジェクト構想を結びつける。ODAについても、このようなネットワークのなかで認められたプロジェクトに集中して投入すべきだ。

「環境権」と「環境保全義務」
 二酸化炭素の排出に占める家計の割合は全体の約二〇%であり、近年、増加する傾向にある。環境に配慮したシステムをつくるためには、家計、すなわち私たち一人ひとりの意識や価値観を変える必要がある。
 特に大事なことは、国民が、環境に対する人間の責任と役割の重さを理解することだ。
 環境問題は、地球規模の空間的広がりを持つと同時に、将来の世代にわたるという時間的広がりも持つものである。将来の世代が今日と同じ環境を享受できるようにすることが、現在の世代の責務である。こうした責任に基づき、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築することも国民の義務と言っていい。
 環境保全に関する基本理念は、現在は環境基本法に定められているが、二一世紀に入り、憲法を考えるときには、環境権に関する権利および保全の義務について、国として基本的な方針を確立する必要性が生じているだろう。そのコンセンサスが、国民の間でさらに高まっていくことを確信している。
 このような理念の下、国民、国、地域、事業者等すべての関係者が、自らの行動を環境に配慮したものに変えていかねばならない。こうした行動が社会全体で効率的に行なわれるためには、環境に関する情報を国民の間で共有することが大事である。たとえば、企業は、環境対策にかける費用と効果を定量化して示す「環境会計」を積極的に導入し、その報告書を通じてディスクロージャーを進めるなど、環境コミュニケーションを円滑に図ることが望ましい。
 また、環境配慮が基本的な常識となるよう、すべての世代への教育を充実することが不可欠である。