第15章 二一世紀の農業


 食料は国民の生命と暮らしの基本であり、農業は食料を供給する生命産業である。農村は美しい日本の国土と自然を育む空間である。
 しかし、私たちは、高度成長の過程で、効率性を重視し、モノとカネを追求するあまり、農業と農村の大切さを忘れかけていなかっただろうか。過疎、高齢化が進むなか、農村は地域社会を存続することさえ危うくなっている。
 二一世紀を目前にして、改めて、@国民にとって食料はいかなる意味を持ち、その供給はどうあるべきか、A日本の経済社会において農業と農村はいかなる機能・役割を果たすべきなのか、を問い直す必要がある。
 人口、環境、資源、エネルギー問題が地球規模のテーマとなり、世界の食料需給には不安定要因が増大し、中・長期的には食料不足が懸念されている。同時に国民の間には、効率性一辺倒への反省から、「モノの豊かさ」より「心の豊かさ」を求める機運が高まっている。

安全、新鮮、高品質な食料
 総理府の調査によると、国民の一〇人に七人が、将来の日本の食料事情に不安を感じ、八割以上が、食料は外国産より高くても国内でつくるほうがいい、と答えている。さらに、日本の食料品を評価する点として「安全性」「新鮮さ」「高品質」を多くの人が挙げている。農業・農政に求められているのは、経済社会の変化、国民の要請を踏まえた、新しい時代への対応である。
 農業・農村のあり方は、国家のあり方、日本人の生き方とも密接にかかわっている。目先にとらわれず長期的視野で、その方向を定めなければならない。将来の日本の食料事情や食品の安全性に対する国民の不安を取り除き、@二一世紀においても国民に対して安全なおいしい農産物を供給する日本農業の存続、A美しく活力ある農村の継承、を実現することこそ政治に課せられた責務である。
 農業・農村の位置付けが確固たる国民全体の合意としてつくり上げられたとき、閉塞感に満ちている農業・農村に活気がよみがえり、農業者は自信とプライドを持って営農にいそしめるのである。

多様な経営で活力ある農村を
 日本農業については、規模が小さい、コストがかかるなど不利な点ばかりが強調されている。たしかに、日本の農業は、それを取り巻く内外の著しい状況の変化のなかで、農業従事者の減少、高齢化、耕作放棄地の増大、これらにともなう国内食料供給力の脆弱化、農村の過疎化などに直面している。
 だからと言って、日本農業を消滅させるわけにはいかない。むしろ、生命産業としての農業を発展させなければならない。また、農業者の減少は、見方を変えれば構造改革へ向かう流れであり、これを好機ととらえる意欲ある農業者も増えている。
 幸い、日本は世界的に所得水準が高く、市場には大きな購買力がある。消費者が必要とする農産物を生産すれば、大きな農産物の販売市場が身近にあると考えていい。さらに、おいしく、安全な農産物を生産することにかけては、世界のどこにも負けない技術がある。
 日本の国土は南北に長く、平野から山間部まで高低差がある。その地域の気候、風土に合わせて多種多様な農産物の生産が可能だ。こうした利点を生かし、意欲ある農業者が創意工夫を発揮すれば、多種多様な経営発展が可能である。また、そうした活き活きとした農業経営が展開されるところにこそ、活力ある農村社会が形成されると確信する。
 過去、ともすれば都市と農村は対立の構図で語られることが少なくなかった。しかし、二一世紀の農業は、都市と農村の連携・調和なくしては語れない。都市住民にゆとりと安らぎを提供し、農村における就業・所得機会の創出を図るためには、グリーン・ツーリズムを国民運動として定着させ、市民農園、日本型クラインガルテン(滞在施設と一体的に整備された小規模農地)などを普及させることが不可欠である。

二一世紀の六つの農政ビジョン
 ピンチをチャンスと考える意欲ある農業者を応援し、自由な活動を保障することが政治の責務である。農業・農村の可能性を最大限に引き出し、豊かで活力あるものにするために、次のような農業・農村政策を実行したい。

1.食料を安定的に供給し、不測の事態における食料安全保障を確保するため、減少の一途をたどっている食料自給率に歯止めを掛けなければならない。一九九七年度に国民に供給する熱量(カロリー)換算で四二%まで下落した自給率を、五〇%まで押し上げるよう努めたい。この指針があってはじめて、安全かつ安定した食料供給が確保できると考える。
2.意欲ある農業経営者が創意工夫を発揮できるよう、自由な競争ができる農村環境を整備するとともに、その育成を積極的に支援していく。多様な就農ルートを通じて幅広い人材の確保・育成を進めるとともに、地域の実情に合わせて、法人経営を含め多様な形態による足腰の強い農業経営の展開を図る。離農農家の農地・施設を円滑に継承するリース農場制度、バイオなど先端的技術の活用、援助を積極的に推進する。
3.条件が不利な中山間地域を含め、活力ある開かれた農村社会の維持・発展を図るため、生活環境の整備、安定した雇用の場の創出、都市と農村の交流などを推進する。
4.消費者が安心できる良質で安全な食品を提供するため、生産から消費に至る各段階において、徹底した食品の衛生、品質管理体制を整備する。また望ましい食生活の「ガイドライン」を策定し、積極的な国民運動を展開する。
5.魅力ある食品産業育成のため、中小企業が多い食品産業の実態を踏まえ、経営体質の強化に向けた支援を行なう。
6.水産および畜産も、安全・安定的供給を第一に、新しい研究成果を反映させた「育てる産業」として支援する。林業は美しい国土の保全・管理の視点で支えていく。