第14章 財政・税制改革 

一九九九年度予算は、公債発行額三一兆円、公債依存度三八%と、戦後最悪の財政状況となった。国と地方を合わせた債務残高も六〇〇兆円と、GDPの一二〇%に相当する巨額の借金である。主要先進国で、ひとり日本だけが、悪化の一途をたどっている。
 経済が弱っているときに、財政だけを健全化させるわけにはいかない。まず、景気回復を優先すべきである。
 ただ、将来にわたって、財政がこのままでいいわけではない。いずれ財政再建ができなければ、今後国家が積極的に果たすべき役割を果たせなくなってしまう。政治家が問題意識を持つべきなのは当然である。
 では具体的にどうするか。
 まず、基本認識として、日本の経済基盤を冷静に見る必要がある。一人当たりのGDPを比べてみると、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダなど欧州主要国が、軒並み二万ドルから二万五〇〇〇ドル台であるのに対して、日本は約三万三〇〇〇ドル、これは米国の三万ドルよりも大きい。中国に至っては七〇〇ドルに過ぎない(一九九七年)。
 また、公的対外準備高も、比較的水準の高いドイツが八〇〇億ドル、米国が約七〇〇億ドル、韓国が約五〇〇億ドルに対し、日本は二二〇〇億ドルと桁が違う。

財政改革のシリオ
 このように、世界でトップクラスの経済力を持つに至った日本の実力は、並大抵のものではない。最近の自信喪失や元気のなさは、戦後の長い生活水準向上の歴史から言えば、ほんの気の迷い程度だ。
 この認識に立って、ではどのように財政改革を進めるか。
 まず、日本経済が持っている本来の力(潜在成長力)を引き出し、経済再生を図ることである。特に、民間部門の力強い回復を待ち、それを原動力として、次のステップに移行するタイミングを計るべきだ。
 こうして、国民の懐を暖かくすると同時に、財政の体力回復が国民にとって大事であるとの理解が得られるよう、地道な努力を続けなければならない。
 この基本的な考え方のもと、具体的なプロセスをどうするか。
 第一は現下の経済対策である。最近一年の経済状況はまさに危機的状態にあった。この危機から一刻も早く脱出するため、私は通貨供給量をターゲットとする金融政策を含め、あらゆる手段を講じて経済再生を図るべきだと考える。
 今、心配すべきなのはデフレであって、旧来の金利政策にあまりこだわるべきではない。ハイパーインフレはよくないが、健全な経済成長には適度の物価上昇がともなうものである。今や、金融危機対処も含め、日本経済の舵取り役として、日本銀行の役割は大きい。
 次のステップが財政節度の問題である。短期的には、経済を生かすため財政悪化もやむを得なかったが、これだけ大量に国債を発行すると、長期金利の上昇は避けられず、やがて財政悪化が経済の悪化をもたらすようになることは必定である。
 政策の節度や規律は、政策運営に対する国民の信頼の回復につながる。それによって経済の先行きを明るいものとすることが必要である。
 第三の中・長期的視点に立てば、歳出削減と歳入増加の方策について、国民的議論を深めることが重要である。
 国家と国民は一体であり、国民を離れて国家が打ち出の小槌を持っているわけではない。毎年三〇兆円にのぼる構造的歳入歳出ギャップは、小手先の手法では到底解決すべくもないほど巨額である。
 結局、私たちは王道を行くしかないのである。

税制改革の方向性
 税制については、これまで直接税の税率構造の見直しなどにより、大胆な減税が行なわれてきた。これが景気対策としてどの程度効果があったかは、まだこれからの議論だが、いずれにしても今後の税制議論は一時的な経済対策というより、将来の税制のあるべき姿を描く必要がある。
 その第一は、内外の優秀な人材や企業が日本で積極的に活動の場を見出し、活力を持って経済活動に取り組めるような税制とすることである。
 具体的には、まず、垂直的公平から水平的公平へ、という考え方を明確に打ち出すことだ。従来は垂直的公平を重視するあまり、所得税、法人税、相続税など、金持ちに高い税率をかけ過ぎて、国民のやる気を失わせていたのではないか。今後は働いた結果が報いられる税制とすべきだろう。そのためには、税率のフラット化と同時に、相続税制や中小企業の承継税制についても、国民の活力を阻喪せしめないよう見直すべきだ。
 また、世代間の公平、つまり、支える世代に過重な負担とならない仕組みにする必要がある。社会保障負担も含め、若い世代に負担が重過ぎるのは、国民の公平感にそぐわないだけでなく、社会の活力を失わしめる。
 さらに、自己責任に基づいた自由主義的経済のメリットを最大限生かせるよう、課税の中立性を高めていくことも大事である。NPOについては、社会的に有意義な国民の自主的活動として、税制上も積極的に評価するべきだ。
 第二は、簡素でわかりやすい税制を目指すべきである。そのためには「広く薄く」という方向性のもとに、既得権化している特別措置や諸控除制度をいったん廃止した上で、真に必要なものを再整理するなど、大胆な見直しが必要である。
 また、所得税の課税単位について、少子・高齢化対策という観点も含め、たとえばフランスのようにN分N乗方式をとることも積極的に検討する価値があるのではないか。これは控除項目の整理にもつながる。
 さらに、脱税や益税が不公平感を大きくしていることから、納税者番号制度や、インヴォイス方式の導入などが、国民の広い支持を得られるかどうか、勇気を奮って検討の俎上に載せてみてはどうか。
 第三は、地方財源の充実である。税源の移譲も大事だが、単に国から分け前を分捕ってくるだけでは、地方分権の趣旨を生かしたことにならない。むしろ独自財源の確保を図る方途を検討すべきである。
 地方自治の本旨に立ち返れば、課税自主権を現実のものにすることが本筋だ。法定外の地方税に地方独自の知恵を絞るだけでなく、国の法律の縛りをできるだけ外して、個性ある地方自治を実現するなかで税財源を確保するのが本来の姿である。
 このような改革によって、所得、消費、資産の間でバランスのとれた税体系を構築し、社会構造の変化に応じて経済の活力を引き出すような税制をつくり上げることが税制改革のポイントであろう。