第9章 活き活きと働ける社会


「活力」ある経済社会においては、一人ひとりがその意欲と能力を発揮する形で働く。そこでは、雇用が生産性の高い分野に移動し、言い換えれば、人材の流動化(転職)が進み、個々人はその能力を高めることになる。
 人材の流動化、転職、中途採用が進んでいくと、これまでの教育、受験、就職、国民の幸福観(どんな人生が幸せか)が変化していく。たとえば、これからは「どの教育機関で学んだか」ではなく「何を学んだか」が、「どこの企業で働くか」ではなく「どんな専門性のある仕事をしているか」が重視されるだろう。

意欲と能力の発揮
 意欲の点で言えば、女性が結婚・育児と就業を両立できるようにしたい。このため、柔軟な勤務形態(在宅勤務やフレックスタイム制など。これは情報化、特にネットワーク化の進展によって導入しやすくなると思う)の採用と並んで、幼稚園・保育所の機能拡大とサービスの多様化、学童保育の整備が求められる。
 また、高齢化社会では、「生涯現役」を望む人が増えるため、定年延長、ワークシェアリング、柔軟な勤務形態の採用とともに、教育や保育、介護の各分野、技術協力といった国際貢献の分野、NPOにおいて活躍の場が得られることも必要だ。
 能力については、第8章の「新規開業、ベンチャー・ビジネスの支援」の項でも指摘したように、創造的な人材、多様な人材を育成することが課題である。これからは、教育現場でも「規制緩和」「選択肢の多様化」「情報」がキーワードである。画一的と言われる義務教育について、もう少し学校選択の幅を広げるとともに、学校ごとにカリキュラム、教科書・教材に工夫を凝らせるようにしたらどうか。
 研究と教育を担う大学では、社会のニーズに、より応えるため、学部学科、カリキュラムの編成をもう少し柔軟にするとともに、アクレディテーション(教育、研究に対する客観的な評価)を導入することが望まれる。また、義務教育、高等教育いずれの場においても、実務者の活用がもっとなされていい。
 人材の流動化に関連しては、個人の能力向上に対する給付金交付、労働者派遣と職業紹介に係る事業規制の緩和、官民の人事交流、確定拠出型年金制度の導入、年金のポータビリティ化を進める。制度上、転職が不利にならないよう(少なくとも中立的であるよう)各種制度を見直していくことが重要である。

当面の雇用対策と失業率三%以下の実現
 九九年四月の失業率は、四・八%と前月と同水準だったが、男性は五%となり、人員整理など勤務先の都合で離職した、いわゆる非自発的離職者も一一五万人と、それぞれ過去最高を記録した。景気低迷、企業のリストラによって雇用情勢は目下厳しさを増している。雇用の先行きに対する国民の不安を取り除くことが急務である。
 景気動向に応じた機動的な財政金融政策を展開することと、新規開業や新事業の創出による就業機会の創出に努めるとともに、個々人にとっての雇用のミスマッチ││労働条件的なものと職種的なものなどがあるが││を解消していくことが必要である。
 雇用の維持政策に加え、大胆に人材移動政策に踏み込むべきである。具体的には、失業に至る前に転職しやすくなる環境を整備するため、人材を送り出す側の企業が転職後に必要な教育訓練を受けさせる場合や、受け入れる側の企業に対し、賃金や教育訓練費を支援する場合に、対象の年齢制限(現在は四五歳以上六〇歳未満)を外し、一定の若年層も対象にすべきである。
 また、失業者に係る職業訓練の充実とその間における失業保険の給付期間の延長も行なったらどうか。さらに、就職側と採用側との間に立ってマッチングさせる機能は今後ますます重要となり、職業紹介、労働者派遣の役割が高まっている。これらの分野の規制緩和の実をあげることにより、民間がアイディアと活力を発揮することが期待される。
 こうして、できる限り早く失業率を三%程度に引き下げ、さらに低下させる努力を続けることで、国民の雇用不安を払拭していきたい。