第6章 日本経済の再構築


 いかにして「活力」ある経済を取り戻すか。
今、トンネルの中にいる日本の経済社会が、どうやってこのトンネルから脱出するか。また、脱出した後の経済、社会、生活はどのようなものか。将来のイメージを国民の間で共有することが最も重要だ。
 私が描くシナリオのポイントは、次の七つである。

1.潜在成長力の発揮
 識者の間でも意見が分かれているところだが、私は、日本経済の潜在成長力を二%台の上のほうと考えている。今後、官民挙げて構造的な課題に取り組み、改革を推し進めていけば、日本経済を潜在成長力軌道に復帰させ、二○一○年には実質三%程度の成長も可能ではないか。
 もちろん、経済成長率それ自体が目標ではないし、ひとつの目安だが、私は、国民全体の励みとして三%成長のシナリオを追求したい。

2.持続可能な成長の確保
 これからの経済成長は、「環境、資源エネルギー、食料などの安全保障」と両立するものでなければならない。これらは、これまで基本的に経済成長を制約するものと位置付けられてきた。今後、この度合は強まっていくと考えられるが、私は、逆に成長のチャンスとしてとらえたい。
 特に「新しい環境創造」への取り組みは、資源エネルギーの効率的利用、リサイクル、リユースによる循環型社会の構築、バイオ・テクノロジーによる農業革命などの技術開発・技術革新を通じて、新規産業と雇用機会の創出や、技術協力を通じた国際貢献につながっていくはずだ。

3.科学技術創造立国
 日本が、世界の文化の発展、人類の進歩・繁栄に寄与するとともに、産業の競争力を向上させ、豊かな国民生活を実現するため、科学技術の振興が不可欠である。少子・高齢化社会に向かうなかで、三%の経済成長を達成するには、技術進歩、技術革新が鍵を握る。
 二一世紀の扉を開けようとする今、改めて「科学技術創造立国」という目標を高く掲げ、その実現に全力を注ぎたい。

4.選択肢の多様化、規制緩和と自己責任
「活力」ある経済社会では、個人、企業を問わず、多様な選択肢が用意される。それには規制緩和や商慣行の見直しを行ない、市場メカニズムの活用を、より重視する方式に変更することだ。
 供給側には、創意工夫、経営資源の有効活用の余地が拡大し、一方、需要側には、幅広い選択が可能となる。そのなかから自由な選択を行なうに当たっては、判断のために必要な情報にアクセスできることが前提となる。そして、自ら選択した以上、結果に対し自己責任を負うことになる。

5.供給側の構造改革と「セーフティ・ネット」の整備
 バブルの後遺症から脱するため、経済対策においては、これまで金融システムの安定化と需要の喚起に全力を傾注してきた。そして、日本経済がデフレ・スパイラルに陥ることは何とか避けられそうな状況まできた。
 こういう状況にある今こそ、需要確保のための財政金融政策の機動的発動と合わせて供給側の構造改革に改めて取り組んでいくことが必要である。
 新規産業やベンチャー企業を起こすとともに、企業内で、あるいは企業の垣根を越えて、現在抱えている過剰な設備、債務、雇用の解消に努力することである。「過剰」を解消することにより、ヒト、モノ、カネ、土地といった経営資源が、新製品・新技術の開発、新規産業に効率的に振り向けられることとなり、生産性の向上と新規需要の創出が可能となる。その結果、企業の収益力は高まり、経済発展が実現される。
 このような企業努力と、これを円滑にするための規制緩和などの構造改革は、ときとして失業の増大といった痛みをともなう。
 今、求められるのは、知恵と、痛みに立ち向かう勇気・忍耐であり、政府が自己責任、モラル・ハザードに配慮しつつ、国民の不安を解消する「セーフティ・ネット」を整備することだ。

6.六つの改革の推進と地方制度改革への挑戦
 橋本内閣が開始した六つの改革(行政改革、経済構造改革、財政改革、金融改革、社会保障改革および教育改革)の重要性には、いささかも変化はない。その具体的な進め方については後述するが、ここでは、行政改革について触れておきたい。
 二○○一年一月、中央省庁の再編が行なわれるが、これからの行政は、中央、地方とも「小さな政府」を追求し、行政が関与すべき分野と、そうでない分野とをしっかり見極めるとともに、関与の方法もよりソフトなものを目指すべきである。
 さらに、地方自治体を地域経営の中核として位置付ける地方制度改革にも挑戦したい。

7.公共事業の重点化・効率化とストックの重視
「活力」を回復するために公共事業を活用する。単なる景気の下支えだけを目的とするものではなく、二一世紀の日本の産業と国民生活とを展望し、戦略的に重点となる分野の社会資本整備を進めていくことである。
 その際、事業は効率的に実施されなければならないし、これまで蓄積されたストックを重視するとともに、その活用を図るべきだ。とりわけ、PFI方式(民間資金活用型)による社会資本整備を推進したい。