初めて「YKK」の存在を報じたのは、1991年7月6日の朝日新聞朝刊だと思われる。記事はこんな描写で始まっている。『地元・福岡市にいた自民党渡辺派の山崎拓氏に、米国から帰ったばかりの宮沢派の加藤紘一氏から電話が入ったのは、6月30日の日曜日。加藤氏 「ジュンちゃん(三塚派の小泉純一郎氏)に聞いたが、総務会のやり方はひどい。ちょっと集まろうよ」。山崎氏「分かった。すぐ行く」。この夜、都内で会った3人は「それぞれの派閥を動かして、政治改革法案の党議決定をやり直しさせよう」。いずれも当選7回で「YKK関係」と言われるほど親しいが、とくに山崎、加藤両氏は「タクさん」「コーちゃん」と呼び合い、「まるでファスナーのよう」(加藤氏)にピタリと呼吸が合う仲だ。』時は海部内閣、渡辺美智雄元副総理は健在で、小沢、羽田両氏も自民党に在籍しており、森喜朗総理は衆院議運委員長であった。前年の大晦日に打合せがあり、正月に3人が集まって「YKK」をスタートさせてから、その存在が報道されるまで実に半年以上経っていた。以来10年間、「YKK」は常に政局の要でその存在が注目されてきた。いったい「YKK」とはなにか、日本をどこへ導こうとしているのか。シリーズ初回の「山崎拓・評」は、「KK」が語る「Y」の実像である。

 
加藤紘一
衆議院議員(山形県第4区)選出、自由民主党 昭和14年6月に生る、山形県出身、東京大学法学部卒、外務省中国課、防衛庁長官、内閣官房長官、自由民主党政務調査会長、幹事長(3期)、当選10回、現在 政策集団宏池会会長
 

女性っぽいイントネーションで「じゃあね」と
互いに素顔を見せているのかもしれません。私自身もそうですし、何ひとつ話せないことはない、というくらい話をしますね。週3?4回も深夜、話し込む。おい、そろそろ寝るか、というんで話が終わる。そのときに、彼は女性っぽいイントネーションで「じゃあね」と言うんですよ。あのいかつい柔道男がね。(笑い)何故かなって考えてみると、お子さんは3人ともお嬢さんで、彼自身は女兄弟しかいない。生まれたときも、育ったときも、結婚して子供が生まれても、全部女性。男のいない世界にいるから、「じゃあね」という違和感のある言い草になるんだね。

あなたにとってのライバルは誰ですか?と
どうしてこんなことになっちゃったのかな、と振り返ってみると、彼は一編の記事だ、と言うんですね。当選2回目のころかな。「自由民主党の若き将来の群像ホープたち」という小さな記事で、ひとりずつ紹介し、インタビューして最後に、ではあなたにとってのライバルは誰ですか?と。その時、ボクは山崎拓と言ったんです。彼の力量と生まれながら持っているある種の度量というものが感じられてね。ボクのように二世で、いろいろな経緯があって、政治家には向かないと思いつつ政界に入ってきた人間からみれば、彼はやはり指導者になる男だなあ、と思ったものだから正直にそう言った。その記事が彼の選挙区で評判になったらしい。そんなに高く評価してくれたか、ありがとうということだが、ボクにしてみれば当たり前のことを言ったに過ぎない。

娘さんがショックを受けて家出するという事件に  
その後、週刊文春が各界の代表的な人物をとりあげて「この人と1週間」というシリーズをやっていて、ボクを取り扱おうと言ってきた。ボクは比較的選挙は安定している。山崎拓さんを取り扱ってほしい。彼の選挙運動にはすごく良いだろうと思ったものだから、お願いした。ところが、書き方がいかにも週刊誌的でね。後援会の集会を票集めのために駆け回る山崎拓、若手代議士。第1会場で浴びるほど婦人後援会の杯を受け、途中でトイレに駆け込んでむりやり吐いて、次の会場へ笑顔で行って媚を売る。票を集めるにはこれしかないのか、という記事になっちゃった。その記事を読んで、娘さんがショックを受けて家出するという事件にまで発展した。真実は、そんなに深刻なものではなかったらしいんだが、ボクも責任を感じてね。

実はボクの政治生活のかなりの部分は山崎拓がデザインしている
メディアの評判で、一般国民もそう勘違いしているんだけど、山崎拓は勉強しない体育会系で、ボクがインテリってことになってるらしい。ボクもそこそこ知性派だと自任はしているが、彼のほうがよりモノを考えたり、モノを読んでいる。彼の演説や毎晩の我々の会話には、ボクが知らない用語がどんどん出てくる。やはり、いまの自民党の中で、良識、知性派の代表的な人物で、グランド・デザインが描ける人。スケールの大きさがあって、人生をダイナミックに生きていくタイプ。そこの魅力は大きい。つい最近、朝日新聞の有為転変という特集の中で「参謀は野中さんじゃないですか」と聞かれて、ボクは「それは山崎拓です」とはっきり答えた。ちょっと騒ぎになったらしいが、実はボクの政治生活のかなりの部分は山崎拓がデザインしている。ボクにとってのチーフ・ストラテジスト、総参謀長は山崎拓ですよ。

ボクらもやろうよ、と紅白歌合戦のテレビの音が聞こえる中で
仮に我々の誰かが政権を執れることがあっても、すべてのポストをYKKで占拠してしまうなんてことはやめようね、とよく話をしているんだけど、どうもそんな風に思われているのかもしれない。YKKは平成2年の大晦日の晩に、ボクが山拓さんの福岡の自宅に電話して、我々も当選回数を重ねて一応大臣にもなったし、党のこと、国のことをのびのびと語り合う会を持ちたい。伊東正義、藤尾正行、奥野誠亮と、まったく思想信条の違う先輩政治家たちが、何ヶ月かにいっぺん嬉々として集っているではないか。うらやましいね。ボクらもやろうよ、と紅白歌合戦のテレビの音が聞こえる中で言い合ったのが最初なんですよ。もうひとり、誰にするというから、小泉純一郎はどうだ、と言ったら、あれは変わり者でエキセントリックでねえ、と言う。いや待て待て、ああいうタイプがメディアにもてはやされる時代が来るぞ、と。(笑い)そうかもしれんなあ、ということで始まって、もうすぐ10周年です。かつて、大福関係、安竹関係というのがあったけど、よく見ると最高で3年続いた程度のものなんです。だから、10年の間には政局的には互いに対立することもいっぱいあったが、続いているのは、自分にとっても誇りだと思っている。(談)

 
小泉純一郎
衆議院議員(神奈川県第11区)選出、自由民主党 昭和17年1月に生る、神奈川県出身、慶応義塾大学経済学部卒、厚生大臣、郵政大臣、当選10回、現在 政策集団清和政策研究会会長
 

世間のイメージとのギャップがある
拓さん、ボクはいつも拓さんと呼ぶんだけれども、YKK3人で会うとね、拓さんが大胆で率直で、教えられるところが多いね、世間一般で言われている印象とはまったく違いますよ。YKK、少数の3人だけの会合だと本音が出るでしょう。一番彼が大胆じゃあないかな。政略にしてもね。それから、人間関係。それと、ユーモア。人間心理の綾に通じている。味のある人だ。一緒に酒を飲んでいて、あんな楽しい人はいない。いちばん面白い、楽しい。世間の目は節穴じゃないかと思うね。一般のマスコミが、拓さんのことをよく暗い、と言うが、とんでもないね。あんなに明るくて面白い人はいないね。世間のイメージとのギャップがある。我々3人の間だと、こんなこと言っていいのかと思うくらい、大胆率直ですよ。ボクは黙ってるだけだけど。そこがまた面白い。あれだけ勉強家で、記憶力の優れた人もいない。よく覚えてるね。前に誰がああ言ったこう言ったということを。ボクなんかすぐ忘れちゃうけどね。結構飲んで豪快に笑いながら無駄話をしているようだけど、あの時の話はこうだったとかよく覚えている。ほんとは酔っぱらっていなかったんじゃないかと思うくらい。結構緻密、ねちっこい性格というのではなくて、緻密なんだ。ことによると日記でもつけているのではないかと思うくらいよく覚えている。酔っぱらっても、帰ってから、今日何があったとか誰がこう言ったとかつけてるのかと思うくらいいろいろ覚えている。

拓さんの真価が見えてくるね
マスコミに聞かれて、ボクのことを、なんだかエキセンだとかいってたけど?。(大笑い)それから発して変人になったんじゃないかと思うんだ。凡人・軍人・変人ってね。深く親しくなって10年以上になるね。同期生だから、党内で顔を合わせたりするくらいで、今みたいな関係じゃなかったんだが、YKKをつくって10年も一緒に楽しい酒を飲んでいると、拓さんの真価が見えてくるね。座談の名手でね。3人でいるとどうしても拓さんが中心になる。拓さんがいないと面白くない。仕事の話以外でもね。人生経験が豊富だ。苦労もしている。私と加藤(紘一)さんは二世で、どっちかと言えば、ボッチャン、苦労知らず、拓さんは無所属で選挙に出て、2回目に当選するという苦労もし、努力家だ。だから、人間の心理のアヤというものがよくわかるんだろうね。小説をよく読んでいるみたいだね。新聞小説かな。読書家だしね。自分の経験か、と聞くとね、これは小説によるととか言ってはぐらかされてしまう。(笑い)

YKKの「他人に言えない話」
YKKができたのは経世会が非常に強く、竹下、金丸の両氏が健在で、経世会支配と言われた時代です。それ以外の3派、安倍派、宮沢派、中曽根派が結束すると経世会を上まわるんです。それで互いに見てみると、それぞれが3派の事務総長的な役割をしていたし、初当選同期、国会議事堂の本会議場の議席がたまたま3人並んでいたんだ。そんなことから、たまには酒でも飲もうか、ということになって加藤さんがYKKと名付けたんじゃなかったかな。ファスナーでしょ。語呂もいいしね。つくった頃は、このファスナーはすぐ壊れるよと言われたものだが、もう10年続いているしな。最近ではやめろなんて言い出す人が出てくる。3人が揃って気楽にこうして本音をぶつけあって、世間話あるいは政局の話、雑談。時には猥談(大笑い)まで、酒飲みながら話してるのが愉快だ。その中心的存在が拓さんですよ。YKKでの本音の話は他人に言えるような話ではないし、家族にも言わないでしょう。男だもの。マスコミにも伝わらない。なんにも言わないから、拓さんの人柄も伝わらない。記者から、今日はどんな話をしましたか、って聞かれると、世間話みたいなものだと答えてるけど、ほとんどは他人に言えない話をしてるんですよ。3人で。YKKの「他人に言えない話」。だから面白い。長続きしている秘密もそこにあるのかな。

魅力がタクサン詰まっている  
YKKで雑談しているあの雰囲気をもっと外へ出せばいいんじゃないかと思うね。率直さ、大胆さ。でも恥ずかしがり屋で、照れ屋なんだな。それだけに味がある人ですよ。愛想が悪いっていう人がいるけど、あんな明るい人はいない。暗いイメージがあるのかもしれないが、実際は違う。名前が拓さんだから言うわけじゃないが、魅力がタクサン詰まっている人なんだから。政界は一寸先が闇といわれる世界で、永田町には珍しい関係で、なんでも言い合えるから楽しい。拓さんの3人のお嬢さんの話も出ますよ。一番恐いといっている。それだけかわいいんだろうな。奥さんが4人いるようなね。(大笑い)